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中野たむ“引退”のスターダム賛否両論マッチは「大成功」だったのか? 上谷沙弥「全部お前のせいだからな」感動以上の“強烈なインパクト” 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2025/04/28 17:01

中野たむ“引退”のスターダム賛否両論マッチは「大成功」だったのか? 上谷沙弥「全部お前のせいだからな」感動以上の“強烈なインパクト”<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

4月27日の「敗者引退マッチ」を終え引退が決まった中野たむと上谷沙弥

「すべてを奪ったぞ! でも、なんか苦しいな」

「中野たむのすべてを奪ったぞ! でも、なんか苦しいな。全部お前のせいだからな。お前のせいでプロレスラーになって、お前のせいでケガもして。お前のせいで強くなった。お前のせいで、お前を引退させることになった。でも今日、すべてを奪って分かった。私はお前のことが大好きだ……」

 アイドル志望だったがオーディションに落ちまくり、なんの希望もない日々を過ごしていた上谷にプロレスという光をくれたのがたむだった。試合で対戦すれば、常に限界以上の力を出すことができた。相手がたむだからこそ、受けるのが難しい技も信頼して出すことができた。本当は感謝しかない相手は、しかしプロレスラー同士である以上ライバルだ。

 たむはこう返した。

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「こんな不器用で、泣き虫で、メイクもおかしい後輩のせいで大変な思いしたけど、でもたむはあなたがいたからここまで生きられた。全部お前だから闘えた! ごめんね、ありがとう」

 プロレスラーになってよかった? たむは上谷にそう聞いた。負ける悔しさもケガの苦しみもあるプロレスの世界に「上谷を引き入れてしまった」ことを、たむはずっと気にしていた。

選手引退でも「大成功」…スターダム社長の思い

「もちろん、あんたに出会えて幸せだよバーカ!」と上谷。「たむも宇宙一、幸せなプロレス人生だった」とたむ。最後の最後に師弟に戻って、上谷とたむは2人で花道を引き上げていく。派手な演出はなし。無音の中、場内が暗転して大会終了。2人はバックステージコメントも出さなかった。説明することより余韻を大事にしたと言っていい。

 代わりに岡田太郎社長が大会を総括する。観衆は7503人。目標の1万人には届かなかったが、団体史上最高の動員数だ。敗者引退マッチについては「盛り上がった」という言葉を使っている。

「盛り上がったというのは、多くの人に届いたということ。賛否はありましたが選手の気持ちを尊重しました。それを認めるのも止めるのも私の責任。結果、大成功だったと思います」

 選手が引退しているのに「大成功」と言っては批判されるのではないか。そう質問する。答えは堂々としたものだった。

「それは仕方ないですね。勝者がいれば敗者もいるのが勝負事の世界なので。結果として多くの人に来場してもらったのは成功です。その批判はまったく怖くないです」

 言うまでもなく、プロレスにはエンターテインメントの要素がある。そして“勝負の厳しさ”を見せつけるのもエンターテインメントの一つではないか。映画でも小説でもそうだ。悲劇に涙するのも、整理のつかない感情を持て余すのも娯楽や芸術のうち。『ゴッドファーザー』シリーズを見て「誰も幸せになってない!」と怒る者はいないはずだ。

【次ページ】 上谷との抗争で燃え上がった“たむのキャリア”

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