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「自分の野球観がぶっ壊れるんです」日本ハム・新庄剛志監督が松本剛に伝授した“ハイレベルすぎる助言”「バッターが打つ前に動けたら強いよね」
text by

酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph bySANKEI SHIMUBUN
posted2025/04/19 11:13
ホーム最終戦セレモニーで笑顔をみせる新庄剛志監督と選手会長の松本剛
「バッターが打つ前に1歩目を動けたら強いよね」
初めてこの言葉を聞いたとき、松本剛は耳を疑った。まだ打者が打っていないうちからどうやって打球方向を予測しろというのか、そんなことはできないと胸のうちで呟いた。だが、心にとどめておく。試してみる。すると、見えてきたものがあった。打つ直前の気配があるのだ。研ぎ澄まされた嗅覚を持つ者だけが感じ取れる世界がそこにはあった。
松本剛にはそのことを実感したプレーがあった。24年3月29日のマリーンズとの開幕戦である。4点リードの8回。先頭の友杉篤輝が打った打球はフラフラと舞い、右中間に落ちようとする。その瞬間だった。センターの松本剛がエゾシカのごとく快足を飛ばし、最後は身を投げ出して捕ったのだ。金村尚真の球威なら友杉を圧倒して詰まらせるのではないか。「あそこに飛ぶはず」と直感した。だからこそ、いち早く1歩目のスタートを切り、紙一重のファインプレーが生まれたのである。
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「新庄さんは普通に言うことですが、めちゃめちゃ難しいです。でも、言うようにやっていると、できることって結構あるんです。僕はプロに入る前から20年以上野球をしてきたなかで、自分の野球観で『これぐらいだよな』と壁を作ってきました。そういう壁がぶっ壊れるんです」
それにしても新庄が説く外野手論は、ワードローブに吊るされた色とりどりの衣装のように次から次へと出てくる。飛球を球際でどう捕るかについても考え抜いていた。
「新庄さんは『肩を外す』『肩を抜く』といった表現をするんです」
そう言って、松本剛は身ぶり手ぶりで説明しはじめた。
「最後の最後、球際の打球を捕る瞬間に肩を抜く、と言うんです。実際に肩を抜くことなんてできませんが、『捕る瞬間に力を抜きなさい』と言われました。実際に最後、本当に力を抜くと捕れるんです」
飛球の軌道は直線から放物線に変わり、やがて地面に落ちる。そこでグッと力をこめて真っすぐ腕を伸ばすとボールはグラブをかすめていく。だが、フッと力を抜くことで腕は加速している体の後ろに取り残され、タイミングよくボールが弧を描きはじめた軌道にグラブが重なって捕れるのだという。松本剛にとって初めて聞く極意だった。こうやって新庄は後進の外野手を育ててきた。
そんな松本剛にとって新庄との出会いは悔し涙から始まった。
22年2月、新庄が初めて監督として迎えた沖縄での春季キャンプは松本剛にとって苦い思い出しかない。
