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「ヒールが可愛くて何が悪いの?」上谷沙弥が打ち明けた“ある変化”「こういうのはヒールが言うことじゃないかな」それでもファンに投げかけた言葉とは 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byHirofumi Kamaya

posted2025/04/13 11:00

「ヒールが可愛くて何が悪いの?」上谷沙弥が打ち明けた“ある変化”「こういうのはヒールが言うことじゃないかな」それでもファンに投げかけた言葉とは<Number Web> photograph by Hirofumi Kamaya

4月27日に中野たむとの“敗者引退マッチ”を控える上谷沙弥

中野たむとの抗争、後楽園は3カ月連続満員に

 ヒール転向という選択をするにあたっては「変わらなくては」という思いもあった。昨年3月、主力を含む5選手がスターダムを退団。団体創設者のロッシー小川氏とともに新団体マリーゴールドを旗揚げする。5月の旗揚げ戦は後楽園ホールが超満員になった。退団したメンバーの中には、上谷のタッグパートナーで「お姉ちゃんみたいな存在」だった林下詩美もいた。

「やっぱり新団体だから勢いも話題性もあるし、最初はスターダムを脅かすんじゃないかみたいな見られ方で。だけど絶対に負けたくなかった。負けたくないって言うのも嫌だった。口に出すと認めてるみたいになるから。スターダムは女子プロレス界のトップでなきゃいけない。ここで踏ん張らなきゃいけない。じゃあ何をするか。私がスターダムを面白くしてやろうって行動を起こした。一気に風向きが変わったよね」

 上谷がヒール転向を果たしたのは昨年7月。マリーゴールドのビッグマッチ、両国国技館大会が話題になった直後だ。プロレス入りする前からのあらゆる経験、さらには団体をめぐる状況もあって生まれたのがヒール・上谷沙弥。形をなぞっただけの“悪”ではなく、そこにリアルを感じるからファンもついてくる。

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 上谷が赤いベルトを巻き、トップに立つとリング上の風景も変わった。中野たむとの抗争の中、スターダムは2月から3カ月連続で後楽園ホール大会を満員に。2月と3月は超満員札止めを記録している。

「こういうのはあんまりヒールが言うことじゃないかな?」

 4月27日には、年間最大のビッグマッチとして横浜アリーナ大会が待っている。メインイベントは上谷とたむのシングルマッチ。赤いベルトだけでなく引退もかけられることになった。上谷自身、信じられない思いでいる。

「ダンスとかアイドルをやっていた頃みたいに一生懸命になれることってもうないのかと思ってたんだよね。努力って必ず報われないんだって、自分自身を信じるのを諦めていた。でも自分をもう一度信じてみようって。ベルト巻いて満員の会場で試合して、メディアに出て。今は本当に夢中で突っ走ってる。引退もかけてるからもう極限状態だね。無敵モードというかゾーンに入ってるというか。引退かけて横浜アリーナで闘うとか、自分でもどうかしてると思う。でも“やめられない止まらない”じゃないけど、このまま行くしかないでしょ」

 どこまで行けるのか、あるいは“行ってしまう”のか。それは自分にも分からない。けれどあえて制御はかけない。

「私に全部任せてくれればいいから。最高の景色を見せてあげる。こういうのはあんまりヒールが言うことじゃないかな?」

 いや、それでいいはずだ。ヒールらしくても、らしくなくても構わない。その言葉が上谷の心の底から出てきたものなのは間違いないのだから。《後編に続く》

#2に続く
「ちょっと意外だったね」“敗者引退マッチ”に激しい賛否両論…上谷沙弥が明かす中野たむ戦への本音「最高のプロレスを黙って見とけって」

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