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「謹慎明けの朝青龍にヤジが…」朝青龍vs白鵬“伝説の千秋楽相星決戦”、NHKアナは“白熱の50秒”をどう伝えたか「実況歴40年で最高の大相撲だった」
posted2025/05/22 11:06

気合いを入れる朝青龍に鋭い視線を送る白鵬(2008年1月)
text by

藤井康生Yasuo Fujii
photograph by
Takashi Shimizu
40年にわたって大相撲中継の実況を担当してきた元NHK・藤井康生アナウンサー。そんな名物アナが知る大相撲の歴史を、著書『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(東京ニュース通信社、2025年3月発行/発売元:講談社)から全5回に分けて抜粋掲載します。第5回となる最終回は、藤井アナが名勝負の一つとして挙げた平成20年一月場所・朝青龍vs白鵬のモンゴル出身横綱対決、実況の舞台裏をお届けします【全5回の最終回/第1回から全話公開中】
さて、3年半ぶりに番付の東西に横綱が座り、モンゴル出身の両横綱の時代が幕を開けました。この時点で朝青龍はすでに20回の幕内最高優勝を果たしていました。白鵬はまだ3回の優勝ですが、これから幾度となく繰り返されるであろう朝青龍と白鵬の覇権争いに期待は高まりました。
新横綱の滑り出しは順調でした。初日から白星を並べ9連勝。しかし、その内容は相手の腕を両手で抱えての「とったり」や「はたき込み」など、白鵬本来の右四つの相撲はほとんどありません。一方の朝青龍は、初日にいきなり小結安美錦の上手投げに屈しますが、その後は立ち直って勝ち続けます。
白鵬にまだ天下を取らせない
白鵬は10日目、全勝同士での対戦で関脇琴光喜の上手出し投げに敗れ、横綱としての初黒星を喫しました。この時点で、琴光喜が10戦全勝、朝青龍と白鵬が9勝1敗で追う展開となります。しかし、翌11日目に、朝青龍が琴光喜を退け、ついに3人が10勝1敗で並びました。13日目、白鵬が大関琴欧洲に敗れます。ここから千秋楽まで白鵬は3連敗。中盤までは、白鵬らしさが見られず捌さばきながら白星をつかんできましたが、終盤にきて案定、場所前からの疲れが出てしまいました。
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結局この場所は、朝青龍が初日黒星の後、2日目から14連勝で21回目の賜盃を手にしました。朝青龍が、まだまだ白鵬には天下を取らせないという意地を示し、翌場所以降にも興味を膨らませてくれましたが、事件が起きたのはこの直後です。