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「謹慎明けの朝青龍にヤジが…」朝青龍vs白鵬“伝説の千秋楽相星決戦”、NHKアナは“白熱の50秒”をどう伝えたか「実況歴40年で最高の大相撲だった」 

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藤井康生

藤井康生Yasuo Fujii

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photograph byTakashi Shimizu

posted2025/05/22 11:06

「謹慎明けの朝青龍にヤジが…」朝青龍vs白鵬“伝説の千秋楽相星決戦”、NHKアナは“白熱の50秒”をどう伝えたか「実況歴40年で最高の大相撲だった」<Number Web> photograph by Takashi Shimizu

気合いを入れる朝青龍に鋭い視線を送る白鵬(2008年1月)

 七月場所後の北海道、東北と回る巡業を、朝青龍は「腰椎骨折と左肘靱帯損傷」を理由に休場します。ところがこの間、モンゴルでサッカーに興じていたことが発覚します。これにより、2場所の出場停止、30%の減俸(4カ月)などの処分が下されます。

 平成19年九月場所、十一月場所と朝青龍が不在の間、白鵬が連続優勝を果たし、若い横綱の力を示しました。朝青龍は、十一月場所後、日本相撲協会に謝罪し、12月2日からの巡業に参加します。そして新しい年を迎えることになります。

 出場停止明けの朝青龍がどんな状態で土俵に復帰するのか、白鵬の連覇が伸びるのか。平成20(2008)年一月場所が幕を開けました。新春の国技館、その初日。朝青龍の土俵入りにはヤジも飛んでいました。そんな逆境の中でも、朝青龍は結び前の取組で小結琴奨菊を下し平然と勝ち名乗りを受けます。白鵬も順調に滑り出しました。

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 ところが2日目、朝青龍が前頭筆頭の稀勢の里に敗れます。さすがの朝青龍も、2場所連続出場停止からの復帰は、苦しい土俵が続くのかと思われました。しかし、百戦錬磨、翌3日目から気迫十分の取口で復活します。白鵬も10日目に関脇安馬(のちの日馬富士)に不覚を取りますが、翌日から立ち直ります。両横綱が13勝1敗で並んだまま千秋楽に突入することになりました。

国技館のざわめきと歓声

 千秋楽相星決戦。15日制が定着してからは35回目、横綱同士としては、平成14年九月場所以来22回目でした。前回は、あの貴乃花の「鬼の形相」から8場所ぶりの対決で、武蔵丸が貴乃花に雪辱した相星決戦でした。

 東から白鵬、西から朝青龍、両横綱が土俵に上がる直前から国技館は大歓声に包まれます。呼出の声も行司の声もかき消されました。敢えてコメントをせず、また解説の北の富士さんにも舞の海さんにも話を向けず、仕切りを見守りました。アナウンサーの余計なコメントよりも、カメラが迫る両横綱の表情と、国技館のざわめきや歓声だけのほうが緊迫感は伝わります。

 4回目の仕切りの前に白鵬が頬を膨らませ、ひとつ大きな息を吐きます。表情が険しくなってきました。朝青龍は少し視線を落とし、まだいつもほどの気迫は見せません。時間前の仕切りですが、放送席で固唾を飲んでいると、立つのではないかと一瞬思うほど、両力士が見事に呼吸を合わせて仕切り線にこぶしを下ろしました。しかし、立ちません。両者はおもむろに両こぶしを土俵から離しました。その直後、一気に厳しい表情に変わり互いに相手をにらみつけます。仕切り直しです。そして時間いっぱい。赤房と白房の下、呼出が立ち上がり制限時間いっぱいを告げます。朝青龍は例によって、利き腕の左手でバーンとまわしを叩き塩に向かいます。白鵬の背中は静かに塩に向かいます。

 ここで、私はコメントを入れました。

【次ページ】 「さあ時間になりました、決戦です」

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