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ボクシング史に残る極上の激戦「寺地拳四朗vs.ユーリ阿久井政悟」勝敗を分けた差とは? 元世界王者・飯田覚士が断言「レフェリーの判断は素晴らしかった」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/03/17 17:01

WBC世界フライ級王者・寺地拳四朗(右)とWBA世界フライ級王者・ユーリ阿久井政悟の日本人同士による王者統一戦は史上稀にみる大激戦となった
「一見パンチをもらっているように見えます。でもすべて受け殺しているんですよね。もちろん首振り(ヘッドスリップ)もやっているんですが、フットワークのバックステップが動き自体は小さくとも実に利いている。相手のパンチに対して、前足でグッと反応して後ろに引きながらパンチを受けている感じなんです。どうしても(パンチを受けて)アゴが上がってしまうので、見た目はよくないにしても受け流せるだけのしなやかさがある。これは他のボクサーには真似できない拳四朗選手のテクニックです。一方の阿久井選手は前に出ていく分、パンチを受け流しづらい。その差が後半になって出てきました」
ひっくり返したい寺地と、そのまま押し切りたい阿久井。
勝負の分水嶺となった11ラウンド
息をのむような緊張感が増していくなかで迎えた11ラウンドが勝負の分水嶺となる。カギを握ったのが寺地のボディーショットであった。
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「右のボディーストレートを入れて、上に散らしながらまたボディーに入れて。阿久井選手は効いてないよとばかりに打ち返してきましたけど、あれだけ徹底して上げていた左ガードが(ボディー打ちによって)ついに下がってきて、拳四朗選手のパンチが当たるようになりました。正直、最終回に逆転KOもあるなと見ていました」
最終ラウンドのゴングが鳴ると、飯田は自分の目を疑った。阿久井がダメージなどないかのごとく、前傾姿勢でプレッシャーを掛け、パンチを繰り出していくからだ。阿久井とて必死だった。だが時間が経つにつれて反応が鈍くなっているのは否めない。寺地はここを見逃さなかった。右アッパー、左ジャブ、そして強烈な右ストレートを顔面に見舞い、あれだけ円滑だった阿久井の動きが一瞬止まった。
最大のチャンスに、一気に畳みかけていく。阿久井の反応を見ながらパンチを確実に打ち込み、最後はストップに持ち込んだ。
阿久井がダウンなく持ちこたえていれば、どうだったか。3者のジャッジは11ラウンド終了時点で1者が寺地の3ポイント差、2者が阿久井の1ポイント差であり、12ラウンドを寺地が取ると1-0。つまりはドローとなっていた。ただ公開採点を採用していないため、両者が死力を尽くした大激戦はいずれにせよ僅差の判定になることは誰もが予想できた。
レフェリーの判断は素晴らしかった
この試合を担当した中村勝彦レフェリーのストップが早いのではという見方がある一方、飯田は「妥当だった」と語る。