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「手術明けでパフォーマンスを上げる」初めて肘にメスを入れたカープの守護神・栗林良吏が「ケガの功名」で得た正しい身体の使い方
text by

前原淳Jun Maehara
photograph byKYODO
posted2025/03/17 11:00

肘の手術明けながら、キャンプから順調な調整を続けている栗林
投手陣のメニューが個別練習となる春季キャンプの午後の時間のほとんどで、栗林は1月から続ける右肘に負担のかからない身体の使い方のドリルを繰り返した。自体重によるものだけでなく、チューブやメディスンボールを使ったものなど6種あった。構えからテイクバックをとる動き、投球動作のように左足を上げて踏み出す動きなど細かく分けられ、昨年末に強化した下半身も悲鳴をあげるほどの難易度。しかも理解が深まるたびに、その内容はより細かな動きと意識が求められ、今ではドリルも10種に増えている。
「最初は分かっていてもできないことが多かった。今でもできないことがあるし、難しい。でも頭で考えるのではなく、身体に覚えてもらうしかない。キャンプの間にしっかりとやりこんで、無意識にできるようになれば」
理にかなった身体の動きを追い求めても、最高のパフォーマンスを発揮できるとは限らない。大切なのは栗林自身の感覚であり、投球フォームだ。ドリルの目的はこれまで構築してきたフォームを優先しつつ、正しい身体の使い方を取り入れパフォーマンスを上げていくことにある。だから違和感があれば取り入れなくていい。栗林はトレーナーの指摘を得て自分の身体を知り、その上で投手コーチらとの技術練習に落とし込んでいく作業を繰り返した。
繊細なメカニズム
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「変えることって難しくて、違和感があると投げられない。フォームがいくら良くなっても、打者から見たら打ちやすければ意味がない。できるだけ肘が痛くならないフォームで投げて結果が出れば、それが成長の証拠になると思う」
投球のメカニズムは繊細だ。肘への負担を減らすためでも、単純にテイクバックを修正すると大きな危険が伴う。意識すべきはテイクバックの腕の使い方ではあるが、無意識の動作を意識すると違和感につながり、イップスに陥りやすくなる。
身体の動きはひとつひとつが独立しているのではなく、すべてつながっている。構えの姿勢を変えるだけでも、テイクバックの腕の動きが変わる。栗林の場合、セットポジションのときに背筋を伸ばして胸を張った状態で構えていたが、それをやや猫背気味に変えるだけでも肘の負担が減るという。