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「野球界は変わらなければいけない」DeNA筒香嘉智が語った“データ重視への危惧”…私財2億円を投じた総合スポーツ施設で目指す“野球の未来”
posted2025/03/20 11:01

横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智が語った野球の未来とは?
text by

佐藤春佳Haruka Sato
photograph by
Yuki Suenaga
頂点に立った喜びはもう過去のことだ。2025年シーズン開幕を前に、横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智外野手は静かに牙を研いでいる。
「その喜びは記憶にも思い出にも残っていますけどね。ただ、今の日常とそれが繋がるかと言えば、繋がってはいないです。新しい挑戦というか、今自分のやるべきことがありますから」
激動の1年だった。昨年4月、米球界から5年ぶりにDeNAに復帰。夏場に左肋骨の疲労骨折で離脱したこともあって打撃成績(57試合、打率.188、7本塁打)は不完全燃焼に終わったが、リーグ3位からポストシーズンを勝ち抜いて迎えた日本シリーズでは抜群の勝負強さを見せつけた。
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「野球はやりやすいですよ、日本は。何より環境が海外と違うので、野球のやりやすさというのは戻ってきて改めて感じました。ただ、去年は全然貢献できなかったですから。もう一回ここでしっかり自分を立て直して、新たな『背番号25』をファンの方に見ていただけたらな、と思っています」
野球界は変わらなければいけない
筒香にとって第一義は、プレイヤーとして持てる力を尽くし、チームのために結果を残すことだ。しかし一方で野球界、とりわけ育成年代の環境について問題意識を持ち、自身の信念を発信してきた。
2018年11月に出版した自著『空に向かってかっ飛ばせ! 未来のアスリートたちへ』(文藝春秋刊)では、自身の野球人生を振り返りながら、甲子園で勝つことを究極の目標にした「勝利至上主義」が及ぼす弊害を問題提起。野球界は変わらなければいけない、と訴えて自ら具体的な提言を行っている。
出版後、筒香はさらに豊かな野球経験を積んだ。2019年オフにはポスティングシステムを利用してMLBに移籍。レイズを足がかりに、ドジャースやパイレーツでプレーするとともに、マイナーリーグや独立リーグなど様々な環境で挑戦を続けた。「かけがえのない財産になった」と振り返るアメリカ生活では、子どもたちから高校生、大学生まで、育成年代の現場を見る機会もあったという。
「多くの日本人は、アメリカの野球って自由に楽しくやっているというイメージを持っていると思うんです。でも実際には規律がしっかりしていて、球場では監督と選手はきっちりと線引きされている。グラウンドを離れればフラットな関係に戻るんですけど、野球に関してはかなり厳しいと感じました」
もちろん「厳しさ」とは理不尽な叱責や、絶対的な上下関係を意味するものではない。
「高校、大学の野球を見る機会もありましたが、例えば指導者に対して選手の返事ひとつにしてもしっかりしている。集合時間に遅れたり、グラウンドで個々が好き勝手するようなこともなく、きびきび動いているなという印象を受けました。小学生の子はもちろん楽しく野球をやっていますが、それでも規律はきちんとしていると感じましたね」
アメリカ生活を経て感じた“ギャップ”
一方で、甲子園に象徴されるトーナメント戦が重視される日本とは違って、アメリカの多様な試合のあり方は印象に残ったという。