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「うるせー、クソ指導者!」暴言を吐いた問題児が…「俺、先生になりたいんです」“まるで漫画の主人公”と話題を呼んだ“あの高校生”その後 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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posted2025/02/13 11:03

「うるせー、クソ指導者!」暴言を吐いた問題児が…「俺、先生になりたいんです」“まるで漫画の主人公”と話題を呼んだ“あの高校生”その後<Number Web> photograph by Yuko Tanaka

鳥取県勢として初めて春高バレーで勝利を挙げた鳥取中央育英高校。エース星原優来(3年)の活躍は大会を通してインパクトを残した

 そして翌日、2回戦で対峙した慶應義塾高校は東京学館新潟よりも高さのある選手が揃い、平均身長は185センチ。コートに立つ選手の体格だけを見れば、慶應の勝ちを予想する人がほとんどだったはずだ。実際に鳥取中央育英は第1セットを失うと、第2セットも20対24と慶應にリードを許した。

 だが、劣勢時こそ星原の見せ場。「デカいやつ」が揃った相手にどう勝つか。崖っぷちに追い込まれたところから真価を発揮する。

 星原はセッターの井上に向けて、叫び続ける。

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「全部、俺に持ってこい!」

 当然、慶應も星原を警戒した。それでも「死ぬ気で打ってやる」と覚悟を決めた星原は相手の強打をレシーブし、そのままバックアタックに入りブロックがいようと腕を振り抜く。1点、また1点と点差を縮め、ついに24対24に追いつくと、デュースの末に最後は星原のバックアタックで30対28で第2セットを競り勝った。

 ラリーが続くたびに「またあの1番が打ってくる!」と、物語のクライマックスのように会場は熱気を帯びていく。慶應の大応援団が陣取る中、多くの声援と拍手が名も知らぬチームのエースを後押しした。

星原の右脚に起きた異変

 春高2勝目まであと1セット。第3セットは24対23、最初のマッチポイントをつかんだのは鳥取中央育英だった。

 しかし、この時、星原の右脚に異変が生じていた。

「前日の疲れも全然抜けていなかったし、違和感はずっとありました。でも、絶対大丈夫、行ける、という自信もあった。だから『全部俺に上げて』って。あの時までは言い続けていました」

 タイムアウトやセット間に星原が右脚を気にしていることをセッターの井上もわかっていた。それでも星原の言葉を信じてトスを上げ続けたが、1分以上に及ぶラリーを制したのは慶應だった。24対24。鳥取中央育英が再び25対24と抜け出し、2度目のマッチポイントを握ったところで星原の右脚は限界を迎えた。

「(井上)大和、無理だ。他に上げて」

 もともと負傷していた古傷を悪化させた星原は、両肩を支えられながらベンチに下がった。満身創痍だった小さなエースの姿に多くの拍手が送られる。ベンチに座った後も「あと1点」と叫び、味方を鼓舞し続けた。2年生の御古が星原に変わって「持ってこい!」とトスを呼ぶも、25対27、最後は慶應に軍配が上がった。コートで泣き崩れる仲間とは対照的に、星原は冷静にゲームセットの瞬間を迎えた。

「悔しいのは悔しかった。でもそれ以上に、やりきった気持ちのほうが大きかったんです。最後、決まらなくてみんなは謝ってきたけど、最後まで持たなかった自分の体力不足で実力不足。悔しいけど悔いはないし、ほんとに、3年間やりきれました」

 何度も衝突した桑名監督と抱き合い、星原の高校バレーが終わった。

【次ページ】 「僕、教員になりたいんです」

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