魁皇の大相撲ボヤキ解説BACK NUMBER
「もう1場所見送るべき」賛否の声もあるが…元大関・魁皇が豊昇龍“横綱昇進”に見解「勝負師としてスゴい」「自分は優勝5回、綱取りは難しかった」
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浅香山博之Hiroyuki Asakayama
photograph byJIJI PRESS
posted2025/01/31 17:41
初場所千秋楽、優勝決定ともえ戦を制した直後の豊昇龍。モンゴル出身力士として6人目の横綱が誕生した
今回、琴櫻としては、本人は相当に悔しいだろうけれど、ネガティブに考えてもしょうがない。「いい経験だった」とは今は言えないだろうけれど、しっかり次の場所に向けてやっていけばいいだけです。
綱取りが掛かると、自分の場合はあまり考え込むことはなかったけれど、周りが騒がしくなるでしょ? 「気にしない」と口では言いながらも、自然に耳や頭の中に入ってしまい“無意識の意識”があるんでしょうね。そこをコントロールし、「よし! ここまで来たんだ、やってやろう!」との思いになれればいい。どこか、その状況を楽しめる気持ちと言うのかなぁ。師匠の立浪親方が、豊昇龍に、「楽しんでいけ」とアドバイスしたそうですが、まさにそこなんです。重圧を超えられる人は、上に行ける。強い精神力、考え方が突き抜けていないと横綱にはなれないのでは、と思います。“普通”のままではダメなんですよね、横綱というのは。どこか超越してるというか“何か持ってる人”が極めて行くんだというのが持論です。
今思えば、自分に足りなかったのは、「持ってなかったから」なのかなぁ(笑)。もともとが優柔不断な性格ですし、「自分の信念を貫く」というのか……たとえ周りが何を言っても、「俺はトレーニングしてから体を休めたいので行事は断らせてください」と言えなかったり、酒も好きだったしな(笑)。横綱になるには、さらに自分を追い込んで自分に厳しく、そういう気持ちを新たに持たないといけないのかもしれません。
「いい子にしてるだけじゃ勝てない(笑)」
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優勝争いに最後まで絡んだ王鵬は、覚醒したというか、最近は気迫のこもった相撲で、気持ちを前面に押し出している。前に攻めようっていう気持ちが出てますよね。土俵際でもよく残れているし、千秋楽での金峰山戦では腹と腹が合って、体が伸び上がっているのに休まずに攻めていた。これまではなんとなく相撲を取っている感じだったけれど、ここ数場所は”気の強い相撲”になりました。昨年の九月場所では眼窩底骨折をして手術をしたというのに、ビビらずにガンガンと攻めていた。今まで、どこか内に秘めて隠していたのか、本来の気の強さが出ている感じですよね。思えばこの王鵬は大横綱大鵬のお孫さん。豊昇龍も琴櫻も、「横綱の甥っ子だ、孫だ」と言われているなか、王鵬は目を見張る存在感を出して来ています。この3人とも、余計なプレッシャーがあるだろうけれど、自分自身をもっとさらけ出していいと思うんですよ。「おじいちゃんたちの名前に恥ずかしくないように」との彼らなりの想いもあるかもしれませんが、いい子に大人しくしてるだけじゃ勝てないって(笑)。内に秘めずに、どんどん出していいんですよ。
横綱照ノ富士の引退とふたりの大関の綱取り。豊昇龍は昇進、琴櫻はカド番と明暗が分かれる形になったけれど、本当に盛り上がった場所でした。尊富士や王鵬などの若手も活躍し、かと言えば40歳の玉鷲みたいなベテランも頑張っている。立ち合いから持っていくあの強さはすごいし、玉鷲はまだまだイケそうですよね。とにかく、ひとりひとりのお相撲さんたちに「お疲れ様。初場所が終わってからが、相撲界の正月だからな!」と声を掛けたいところですね。
(構成=佐藤祥子)


