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「キムはぎこちないな、パンチも物足りへんぞ」敗者キム・イェジュンの誤算…長谷川穂積が実況席で見た井上尚弥の“壮絶KO”「被弾が多かった」発言の真相
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/01/31 11:06

1月24日、井上尚弥vsキム・イェジュン。実況席の長谷川穂積さんにはどう見えたのか?
「いい体をしてましたし、コンディションは良かったと思います。パフォーマンスもいつもの井上選手でした。彼の強さはどんな相手でも自分のボクシングを貫く気持ちの強さです。面白いとか面白くないとか関係なく、実際に1、2ラウンドは静かでしたけど、まずは様子を見て、情報を収集して、ちゃんと型にはめるまでしっかりボディから攻撃していく。ちょっとずつ詰めていって最終的には倒す。あれはできそうでなかなかできないんです。格下に挑戦者が代わったら『よっしゃ1ラウンドから倒しにいったろ』と普通は思いますから」
通常であれば対戦相手の試合映像を詳細に分析し、どんな戦術が当てはまるかを検討し、それに基づいて対策を練る。今回はその時間がなかった。過去の映像からキムは「スイッチを駆使するオーソドックス」とみられていたが、実際には終始サウスポーで戦った。井上が試合翌日に口にした「試合中はどこで右に変えてくるんだろうと思っていた」というセリフが、今回の一戦の急造ぶりを物語っていた。
「キムはぎこちない、パンチも物足りへんぞ」
そのキムを長谷川さんはどう見たのか。まずは試合前の予想と期待だ。
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「彼が昔ながらのコリアン・ファイターでないとは知っていましたけど、急に決まった試合ですから、負けても『何やってんだ』とかだれも文句を言わないですよね。だから『よっしゃ、いったろ』という感じで、ごちゃごちゃと乱打戦に巻き込もうとするのかなと思ったんですけどね。いい顔してましたし。だけど蓋を開けたら、体を動かしてできるだけパンチをもらわないように、というボクシングでした」
それでもキムにはやりにくさがあったという。
「いかにも右構えの選手が左構えに変えた、という印象を持ちました。下手ではないけど、きれいなサウスポーではない。それが逆にやりにくさを出していた。井上選手がキム選手のパンチをちょっともらったのは、そういったところも理由かもしれません」
井上が試合後、「いつもより被弾が多かった」と振り返ったように、短いラウンドの中でもらったパンチはいくつかあった。長谷川さんは井上の心理にも目を向ける。