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「可能性しかない」レジェンドが称賛した“スーパールーキー”衝撃の登場…高校3年生の女子プロレスラー・山岡聖怜が大善戦デビューにも涙した理由
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2025/01/18 11:03
1月3日、プロレスデビュー戦でMIRAIと対戦した“スーパールーキー”山岡聖怜
試合後に号泣「この借りは必ず返します」
インタビュースペースでの山岡は泣きながらコメント。「もっと強くなって、この借りは必ず返します」と言う。デビュー戦で先輩に負けたことを「借り」と表現したのだ。あらためて話を聞くと、普段の練習から「負けず嫌いで、技が返せなかったりするとえげつないくらい悔しさが表に出てしまうんです」。
デビュー前から注目され、正直に言えばプレッシャーに押し潰されそうな時もあった。
「プレッシャーがあるから頑張れるので。注目されるのはありがたいです」
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試合前はそう言っていたが、デビュー戦の18歳にとって、それがどれだけ苦しかったことか。むしろプレッシャーから解き放たれるのがリング上なのかもしれない。柔道経験者で寝技も得意なMIRAIは、山岡の能力を引き出す懐の深さを見せていた。
初めての実戦を経験して「プロレスがもっと好きになりました」と山岡。
「見るのとやるのとでは全然違いました。練習と試合も違いますね。試合になると気持ちの入り方が違うんです。プロレスの技術もどんどん身につけたいけど、その上でレスリングを活かすにはどうするか。やっと一歩目が踏み出せました」
レジェンドが語る期待「まだ何色にも染まっていない」
デビュー年の目標は、力をつけてステップアップすること。タイトルマッチも経験してみたい。試合直後にそう語っていた。すると、その目標がいきなり実現することになる。ベテラン・高橋奈七永のパートナーに抜擢され、ボジラ&タンクの大型外国人コンビが持つタッグ王座に挑戦することになったのだ。
タイトルマッチは1月19日の後楽園ホール大会。つまりデビュー16日目での王座挑戦だ。デビューから6日目の9日には、調印式でチャンピオンと乱闘を繰り広げた。
とにかく展開が早い。ゆっくり、じっくり成長することが許されないのもスーパールーキーの宿命なのか。タイトルマッチが決まると、タイトル挑戦を前にした連戦で、山岡は“女子プロレス界の人間国宝”と呼ばれる高橋と組んで2試合を行った。5月に引退が決まっている高橋の隣に立つことは、プロレスラーとしてかけがえのない経験だ。
「奈七永さんとは組んでみたかったんです。あらゆる面でプロレスラーという存在なので。本当に練習の時からプロレスラーそのもので」
高橋は山岡を「可能性しかない。まだ何色にも染まっていない」と評価する。なにしろデビュー5戦目でタイトルマッチだ。
話題性も本格派としての期待もプレッシャーも宿命も。すべて背負って山岡がこれからどんなキャリアを積み、どんなレスラーになるか。それはまだ誰にも分からない。分からないことが、イコール可能性なのだと言ってもいいだろう。