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「年収は4000万円の選手も…」箱根駅伝“山の神”が率いる新チームの“規格外”…「陸上には稼げる余地が」「来年から本気でニューイヤーを狙う」
text by
泉秀一Hidekazu Izumi
photograph by(L)Nanae Suzuki、(R)公式インスタグラムより引用
posted2025/01/08 17:02
青学大では「3代目・山の神」として2度の優勝に貢献。実業団→プロランナーを経て選手権監督となった31歳は、これまでの常識に囚われないチーム作りを目指す
「実業団チームがどんな構造で成り立っているのか、選手たちには仕組みやお金の流れにも目を向けてほしいと思っています。陸上界を持続可能にするためにも、ビジネス面も理解した選手を増やしていきたいと思っています」(高木)
「スポーツ部門をコストセンターとして扱うと、企業としては継続性がありません。継続性がなければ、いずれそのスポーツは廃れてしまいます。でも、陸上には稼げる余地がある。将来的に陸上部だけで黒字化できるように、選手にも頭を使ってもらいます」(松尾)
選手には、SNSの利用も義務付ける。SNSコンサルタントのサポートのもとアカウントを運営し、チームや選手自身のファンを獲得するのも仕事の一環だ。
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「引退後への不安を抱えながら競技に取り組んでいる選手を、何人も見てきました。でも、それだと精神的にきつ過ぎる。だからこそ、知名度を獲得しやすい現役時代からSNSで認知をとり、引退後の選択肢を増やしておくことが必要だと思います」(高木)
引退後には、MABPの本業であるM&A仲介業務に携わることも可能だが、いきなり始めるにはハードルが高い専門的な仕事でもある。
実業団の世界では、アスリートが引退後にビジネス職に配属されても、他の社員とのスキルの差を痛感し、居心地の悪さから退職に至ってしまうケースは少なくない。
陸上で華々しい結果を残しても、それをいかせる現場がないのが実情だ。そこで、MABPでは引退後の受け皿として、陸上を事業化して部署内で営業や講師などの仕事をつくっておく。そうすれば、選手たちは引退後も陸上のスキルをいかしながら社員として働けるというわけだ。
取り組み自体はこれからで実現性はまだ不透明だが、報酬設計と併せた独立採算の仕組みが確立すれば、実業団チームの新しいスタイルとして、業界に大きなインパクトをもたらすだろう。
目標は27年ニューイヤー駅伝…必要なのは「絶対的エース」
現在、MABPに所属する選手は神野含めて3人。九電工から移籍してきた堀尾謙介とメイクスから加入した鬼塚翔太がいる。
加えて、来春に新入社員として3人の入社が決まっており、これから獲得を予定するケニア人ランナー2人を含めると8人だ。
MABPの当面の目標は、2027年1月のニューイヤー駅伝(全7区間、外国人選手は4区のみ)への出場。元日の本戦に出場するためには、2026年11月に開催される東日本実業団駅伝で上位10位に入るのが条件となる。
予選に向けて、現時点で最も足りないピースがエースランナーの存在だ。
「会社との約束は27年1月のニューイヤー出場ですが、26年から本気で狙っていきたいと思っています。その上で、一番必要なのが最長の2区を任せられるようなエース選手。そうした選手にもMABPに入ってもらえるチーム作りをしていきます」(神野)
神野と高木が準備する斬新な実業団システムは、大企業優位の陸上界に新しい風を吹き込むのか。挑戦は、始まったばかりだ。