「野村さんは怖くはないんよ。ただ…」

　木戸が野村に対して抱いた畏怖とはそういうところにあった。ただ、恐怖を感じたことは一度もないという。

「野村さんは怖くはないんよ。殴ったり怒鳴ったりしない。ただ野村さんのひと言っていうのは胸にグサッとくるんだよなあ」

　歴史上の独裁者のように有無を言わさぬ恐怖は用いない。野村が用いたのは恐怖よりも心の深部を抉り、相手が自問自答せざるをえないような透徹した理であった。

《後編に続く》