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「逃げなくて本当に良かった」桃田賢斗(30歳)が語る“挫折を力に変えた瞬間”「結果よりも、愛される選手になりたい」《NumberTV》
posted2024/12/05 11:06
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Tomosuke Imai
【初出:Number1110号[挫折地点を語る]桃田賢斗「奈落で見つけた新しい自分」より】
応援される選手、 愛される選手に
「試合に出ていなかった期間は、少しでもチームメイトにとって良い練習相手になろうと思って日々の練習をしていました。それ以前の僕はしんどい練習があまり好きではないタイプでしたが、毎日を全力で生きてるような感じで走り込みや筋トレにも一生懸命取り組むようになりました。とはいえ、人にどう見られているのかとか、試合勘はどうなのかなどを含めて不安が大きかった中での優勝。逃げなくて本当に良かったと思った瞬間でした」
世界を転戦する日々へと戻っていった中で、桃田が心の中心に軸として据えるようになったことがある。「結果よりも、応援される選手、愛される選手になりたい」という目標だ。 気持ちの変化をもたらしたのは、NTT東日本バドミントン部の須賀隆弘監督(当時)の教えによるものだった。
「須賀監督からは、普通のことを普通にできる選手、人になることが大事だと教えていただきました。バドミントンができるのは当たり前のことではない。つねに周りの人への感謝の気持ちを忘れてはいけない。何度も言葉にして語りかけてくれました」
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思えば、20年1月の交通事故による大けがから険しい道を這い上がって世界のトップシーンに戻ることができたのも、東京五輪という大舞台に出場できたのも、挫折をきっかけにバドミントンと真摯に向き合った時間があったからなのだろう。
「確かにいつの間にか気持ちは強くなっていたのかなと思いますね。挫折を味わっていない時の自分だったら、事故に遭った時点でもうダメかなと思っていたかもしれません。それに、事故の時も本当にいろいろな人にサポートしてもらったからこそ、苦しいことも乗り越えられたと思っています」
桃田は今年4、5月のトマス杯を最後に日本代表から退いたが、選手としての活動は変わらず継続している。心にあるのは現役選手としていろいろな所へ行き、ジュニア勢の育成に尽力したいという思いだ。
「トマス杯では“ここが最後”という思いだったことで肩の力が抜けて、楽な気持ちで良いプレーをできたんです。自分でも納得のいく試合でした。これからは新たな目標に向かっていくつもりです」
挫折を力に変えたアスリートはすがすがしい表情で前を見つめた。
<前編から続く>
【番組を見る】NumberTV「#10 桃田賢斗 どん底から這い上がって。」はこちらからご覧いただけます。