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[必殺技誕生の裏側]女子プロレスを変えた男 空手家・山崎照朝
posted2024/11/23 09:01
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Netflix
二人の代名詞となった“空手技”。それを授けたのは「極真の龍」と呼ばれた伝説の男だった。『あしたのジョー』の力石徹のモデルにもなった武道家によるドラマでは描かれなかった猛特訓が生み出した功績。
初めて「風林火山」の空手着を身にまとった。見栄えのする高い岩場に上り、正拳突きを繰り出した後は、海に浸かって水しぶきが上がるような蹴りを放つ。1983年8月13日から始まった伊豆・稲取温泉での夏季合宿。まだ「クラッシュ・ギャルズ」と名乗る前の20歳のライオネス飛鳥と18歳の長与千種は、報道陣向けの「絵作り」を終えた。あとはリングで軽く練習するだけだと思っていた。
二人の横には「極真の龍」こと、山崎照朝がいる。極真空手の全日本選手権第1回大会チャンピオンであり、現役の新聞記者。変わり種の空手家が、今回の全日本女子プロレス(全女)の合宿から指導していた。
リングでの練習を終えると、拳の握り方から突き、受け、蹴りと山崎が空手の基本を示し、飛鳥と長与が反復する。疲労困憊で宿舎に戻り、他の選手たちが休憩する中、二人は大広間で再び空手の稽古が始まった。
「いつまでやるんだろう……」
飛鳥と長与だけでなく、寛いでいる他のレスラーでさえ、うんざりしている。
二人は駄々をこねるように言った。
「こんなに厳しいなんて。今までやってきた練習と全然違うじゃねえか」
「スターになりたいなら、文句を言わずにやれ!」
全女の副会長、松永健司の怒鳴り声が響き渡る。朝、昼、晩の1日計6時間の猛稽古。これこそ、全女創業家の松永4兄弟(健司、高司、国松、俊国)が望んだ合宿だ。飛鳥と長与のペアが本格的に始動した。