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「まさか最後にコケるの?という感じ」世界女王・坂本花織があえて“世界一にこだわらない”ワケ…五輪に向けて掲げた“意外な目標”とは?
posted2024/11/17 11:30
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
Asami Enomoto
今季の国際大会3戦目となったNHK杯(11月8-10日、東京)。フリーの演技で坂本花織はすべてのジャンプを決めると、集中した表情で最後のスピンを終える。勝利を確信し、ポーズを取ろうとした瞬間、かかとが引っかかって体勢を崩した。会場から「あっ」と声が起きると同時に、アドリブでフィニッシュ。膝を叩いて苦笑いした。
「びっくりしました。オチがついてしまいました」
今季のグランプリ(GP)2連勝でGPファイナルへの切符を手にした坂本。しかし「GPファイナルの連覇はあまり考えていません。今回以上の良い演技をしたいと思います」と即答した。なぜ世界一にこだわらないと発言したのか。今季の戦略を改めて振り返る。
今季の“意外な”目標
世界選手権3連覇で迎える女王にとって、プレ五輪シーズンは戦略が重要になる。GPファイナルと世界選手権で優勝し、絶対女王として五輪を目指すのか。それとも別の目標を定めるのか。そんな坂本が、今季の目標として掲げたのは、意外なものだった。
「今季はルッツを2本入れて、それに伴い連続ジャンプも新しいものを入れます」
エラーを取られる可能性のあるルッツをあえて2本入れ、「ダブルアクセル+オイラー+3回転サルコウ」という新しい3連続ジャンプに挑戦する。これで基礎点を積み増すならば納得がいく。しかし、昨季のジャンプの合計点は45.62点で、今季は45.94点。リスクを増やして、得点はほぼ同じという、異例の作戦だった。
坂本はその真意をこう話す。
「演技後半にジャンプのリカバリーをする時のために、今季のうちに選択肢を増やしておこうと思います。リスクはあるけれど、やって損はない。去年までは世界選手権の連覇を目指していましたが、今季は4連覇よりも、五輪に向けて大事なシーズン。2シーズンを繋げて考えて、最終の目標は五輪で良い演技をすることです」
すべては五輪のために。そう気持ちを定めて、今季をスタートさせた。
いつもとは違う緊張感
国際大会の初戦となったロンバルディア杯では3連続ジャンプを跳ぶことが出来ず、スケートカナダでは3連続ジャンプで転倒した。今季のカギとなる3連続を、NHK杯では何としても決めたい。そう心に刻み、試合当日を迎えた。