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「40人中39位」でパリ五輪に滑り込み…女子ハードル田中佑美(25歳)が振り返る“大舞台までの苦悩”「ギリギリの出場…怖気づく場面もありました」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byAFLO
posted2024/11/15 11:00
パリで自身初となる五輪の大舞台に挑んだ富士通の田中佑美(25歳)。「40人中39位」からの準決勝進出のウラには様々な葛藤もあった
田中が年明けのインドアレースから始まり、海外を転戦していたのは、よりグレードの高い試合に出場して、ポイントを稼ぐためだった。
「元々、記録や順位に執着しないというか、そこを目指してやっていくタイプではないんです。結果としてついてくるものという感覚が強くて。なので、オリンピックに出るための戦略としても、絶対に標準を切るという目標を掲げるのは、自分の性に合わないんですよね。私みたいな選手にとって、ワールドランキングはすごくありがたい制度なんです」
よりグレードの高い海外レースを中心にポイントを重ねていくことで、五輪出場を固いものにしておきながら、参加標準記録に近づくようなパフォーマンスを狙う。これが田中の戦略だった。
春先を振り返ると、国内緒戦の織田記念を13秒00(−0.1)で優勝。セイコーゴールデングランプリ(GGP)では向かい風の中、12秒90をマークし日本人トップの2位に入るなど、着実にポイントを重ねていた。
ランキングで五輪出場のはずが…迫られた標準記録突破
GGPを終えた段階で、ワールドランキングは日本人最上位の34位。ところがその後、ヨーロッパ各国の国内選手権などで記録突破者が増え、日本選手権を迎える時点でボーダーライン近くまで下がってしまったのだ。
「ポイントを稼いだ時点で(五輪出場を)手に入れたつもりでいたんです。それが日本選手権直前に参加標準記録を突破しなきゃいけない状況になってしまった。勝手に軸が設定されたような、想定していたものと違う目標を差し込まれた形になり、より精神的に迫るものがありました」
本来なら参加標準記録突破という緊張感を背負わずとも、最低でも表彰台に乗れば五輪内定を確実にできるはずだった。その計画に直前になって暗雲が垂れ込めたことで、焦りが生じたのも無理はない。
その日本選手権の準決勝では、ランキングの“圏外”にいた福部が参加標準記録を突破する12秒75をマーク。田中も日本歴代2位となる12秒85の自己ベストをマークしたが、心中は穏やかでなかっただろう。決勝は福部が制して即内定。田中も参加標準記録突破と優勝を狙ったが、12秒89で2着と届かなかった。