もともとサッカーが大好きだったからこそ、そこで出会った新たなスポーツに挑戦することにした。ところが、当初は一筋縄ではいかなかった。当時をこう振り返る。

「始めた当時は、本当に怖くて何もできなかったです。自分がどこを向いているかさえ、わからない状況でしたから。『走るなんてできないよ』と感じる状態からのスタートでした」

恐怖心を乗り越え、ブラインドサッカー®にのめり込んだ2つの理由

　それでも、小学生の頃と変わらない向上心を武器に川村は成長していった。この競技にのめり込んでいった理由は、大きくわけて2つある。

　1つが、ブラインドサッカーをするチームメイトたちの存在だった。

「仲間の存在がすごく大きかったです。自分が一生懸命練習することで、少しでもチームに貢献したい、仲間と一緒に喜びを分かち合いたいと感じたんです。それに自分が上達すれば、恐怖心もだんだん薄れていくのかなとも考えていました」

　そして、もう1つ。

　以前の自分を夢中にさせてくれたサッカー選手たちへの『憧れ』だった。

「やはり、サッカーに対する『憧れ』は消えませんでした。サッカー選手になるという目標を一度は諦めなければいけなかったですが、ブラインドサッカーという競技に出会い、挑戦できたことに、ものすごい喜びを感じました。だから、僕自身は、必死で努力したという感覚はなくて、他の人より多くボールを触ることで、少しでも上手くなりたいという想いでした」

　そう話す川村の声は確かに弾んでいた。少年が自分の宝物を見せてくれるかのように、いきいきと語ってくれた。

　一度は離れたサッカーという競技に、全力を注ぐこと以上の喜びを探すほうが難しかった。ボールを蹴り、ゴールを決めるというシンプルな競技であるために、世界中の人たちから愛されるのがサッカーである。そしてブラインドサッカーもサッカーであることに変わりはない。ブラインドサッカーへのめり込んでいった川村は、一人のアスリートとして成長を続け、気がつけば日本代表にまで登りつめていた。

誰かにとっての憧れの存在になりたい！

　そんな川村には心の底から喜べる出来事があった。

「サッカーの男子日本代表であるSAMURAI BLUE、女子の代表であるなでしこジャパン、そしてブラインドサッカー日本代表の全てのカテゴリーで統一されたユニフォームが採用されることになったのです。そして、そのときに僕が背負うことになった10番のKAWAMURAとプリントされたユニフォームをあるサッカー少年が買ってくれて、応援してくれたんです」

　そのときに芽生えた気持ちを川村はこう表現する。

「すごく嬉しくて、そういう状況をもっと増やしていきたいと思いました。同時に『誰かにとっての憧れの存在になりたい』という想いが強くなったんです。障がいがある、なしに関わらず、そういった感情を抱けるきっかけでした」

　そのときの喜びが大きかったからこそ、川村には新たな人生の目的ができた。

「誰かにとっての憧れの存在になりたい！」

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