ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
「近くの道場に自分で電話して(笑)」心臓手術を乗り越え、柔術大会で優勝した“高田延彦62歳のいま”「(ヒクソンを)恨んだことはないよ」
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byGantz Horie
posted2024/10/03 17:00
『SJJIF ワールド柔術チャンピオンシップ』マスター7紫帯ヘビー級で初出場での初優勝を飾った髙田延彦
――元プロの有名選手がこういうアマチュアの大会に出るというのはリスクもあると思いますけど、そこは意識しましたか?
「リスクなんかないよ。俺が長年プロとしてやってきたものと柔術は別競技だし、一般の人としてエントリーしたんでね。そういうさ、変な勘違いをしていたら、こういう場所に出て来られなくなるよね」
――元プロレスラー、元PRIDEファイターとして出ているわけじゃないと。
「全部そういうものを取っ払って、素の自分でね。ひとりの柔術愛好家として出させていただいたんで。当然、そういう目で見る方もいると思うし、それをまったく意識しないというのも難しいんだけれど、なるべく自分の中では意識せず。意識してくれる人には、『もっとみんなで柔術を楽しみましょう』という俺の思いが伝わればいいなと思ってね」
「もし柔術をやってなかったら、趣味もないし…」
――SNSなどを見ると、髙田さんが柔術の試合で勝利したというニュースによろこんでいたファンもたくさんいました。
「結果として『良かった、良かった』と言ってくれるファンの人に対しては、これも感謝です。もうずいぶん前にリングを降りた人間を心の中でも応援してくれたわけだから。
今、自分の中にすごく感謝の気持ちがあるんだよね。今日もチームみんなでフォローしてくれたし、柔術を続ける環境を作ってくれた人たちに対して、そして柔術というものに出会えたことに関してもね。この歳になって、これだけ夢中になれるものに出会うことができたんだから。もし柔術をやってなかったら、俺なんかなんの趣味もないし、相変わらず筋トレばっかりやってるだけだったかもしれない。でも、柔術に出会ったことによって、日々の生活を送る上での目標というか、人生に大きなひとつの道ができたような感じがするんでね」
――まさにライフワークとなるようなものに出会えたと。
「そうだね。やればやるほど、もっともっと深みにハマっていきたくなる。柔術のような技術体系的にも精神的にも深みのある武道、護身術に対して『やってみたいな』と思って足を踏み入れてみると、たいがいの人は抜けられなくなるんだよね。そんな魅力があるんですよ。俺もそのひとりだな」
「(ヒクソンを)恨んだことはないよ」
――でも、『PRIDE.1』(1997年10月11日、東京ドーム)でブラジリアン柔術界のトップであるヒクソン・グレイシーに敗れて各方面から叩かれた時は、柔術に対して恨みのような感情をいだいたこともあったんじゃないですか?
「恨んだことはないよ。叩きのめされたけどね。ヒクソン・グレイシーがやっていたことが柔術だったというだけで、トップ柔術家と闘いたかったわけじゃないから。ただ、これは後から気がついたんだけど、ヒクソン・グレイシー=柔術といってもいいくらいの存在だったんだよね。彼こそがスペシャリストであり、オーソリティだから。そうなると当然、柔術というもの自体にも興味は湧くよね」