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「若い選手は嫌いですか」エディー・ジョーンズが覚悟して挑む”難しい手術”…ラグビー日本代表“夏の総決算”で完敗「100回でも何回でも謝る」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/10/01 17:12
フルバックで起用した李承信(15番)に言葉を送るエディー・ジョーンズHC
ここからは組織論になる。
昨年のW杯フランス大会、日本はベテランで戦ったからこそ、イングランド、アルゼンチン相手に後半までギリギリの勝負を挑むことが出来たのだと思う。
一方で、犠牲にしたものがあった。次世代の育成である。
若手が登用されなかったのは、コロナ禍によるところも大きかったと思う。強化が再開された時にはW杯本番までの時間が限られており、戦術の浸透を考えると、すでに理解しているベテランを優先させざるを得なかった。未来が犠牲になったともいえる。
W杯のスコッドと、現在のスコッドには断絶がある。
W杯フランス大会の最終戦となったアルゼンチン戦では、日本代表の先発15人の総キャップ数は506だった。この試合に出場していたメンバーで、今回のフィジー戦でプレーしたのは、FWではファカタヴァ アマト、ワーナー・ディアンズ、BKではディラン・ライリーの3人だけ。ほとんどのメンバーが新しい顔ぶれ、英語でいうところの人事の「ターンオーバー」が起きたのである。
「総キャップ数が500キャップは必要」
フィジー戦から3日後の9月24日、日本ラグビー協会は土田雅人会長、ジョーンズHCを囲む「メディア懇親会」を開いた。ざっくばらんな会合であり、その席でジョーンズHCの軽い「レクチャー」が行われた。テーマは日本代表の現在地である。
そこでジョーンズHCが示したのは、総キャップ数に見る日本代表の脆弱性だった。
試合に出場する選手たちの総キャップ数は、勝利への基盤である。高いレベルでの経験は、適切な判断を下す能力の成長を促す。
この発想が日本に定着したのは、ジョーンズHCの第一次政権下で、世界と戦うためには「少なくとも総キャップ数が500キャップは必要」と話していたことから重視されるようになった。実際、「ジャイアント・キリング」を起こした2015年W杯の南アフリカ戦、日本代表の先発15人の総キャップ数は574まで到達していた。