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卓球まさかの大波乱「これはやばいぞ…」張本智和と早田ひなが“謎の北朝鮮ペア”に完敗、現地で何が起きていた?「早田は一瞬、笑みを見せて…」
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2024/07/28 17:55
現地時間7月27日、パリ五輪の卓球混合ダブルス1回戦で北朝鮮ペアに敗れた早田ひなと張本智和
完敗を認めた早田ひな「普通に試合をしていても…」
5-7と劣勢になると、どこからともなく小規模の「ニッポンコール」が起こる。その声はカウントが進むにつれ、大きくなっていく。だが、先にリーチをかけたのは北朝鮮ペアだった。9-10。マッチポイント。張本がバックハンドでドライブをかけた打球はネットの上を触れると、そのままコート脇の地面へと落ちていく。
早田は違和感の正体を悟ったように一瞬柔らかな笑みを見せ、口を結んだ。張本は首をひねりながら、下を向く。しっかり負けた。
同時に聞こえてきたのは、「Allez les bleus!」の大合唱。フランスの選手が入場し、大波乱も会場ではすぐに次の試合へと焦点が移る。イスに座らず、張本は立膝の状態で5秒ほどコートを見つめていた。何が起きたのか。自分自身を納得させるように、視線が動かない。
試合後、ミックスゾーンに現れた早田は、落ち着いた表情で淡々とこう振り返る。
「情報量が少ない分、自分自身がちょっと迷ってしまった。男子選手の威力が思ったより強く、攻めても倍に返されてしまったり、張本選手のボールを打ち返されての反撃を止めることもなかなかできなかった。
張本選手のボールを男子選手にも女子選手にもカウンターされてしまったりだとか、北朝鮮選手の精度の高さがすごいなと感じた。この五輪のためにどの選手も仕上げているし、そこを超えられなかった」
より得点が期待される男子選手の打つタイミングで点を重ねられず、悪い循環が続いた。「五輪の怖さはあったか」と聞かれると、「向こうの勢いはあったと思います」と認めつつ、きっぱりとこう言いきった。
「でも、オリンピックだから負けたというよりは、普通に試合をしていても負けていたんじゃないかなという感じだった。そういう部分では、戦術を変えられないところが敗因の一つかなと」
気丈な早田だったが、田勢監督や応援に来ていた日本選手たちの一団に合流すると、律儀に頭を垂れていた。
続いて現れた張本は無表情だった。記者に振り返りを求められると、理路整然とこう答えた。
「有観客の五輪は初で、盛り上がりはすごかった。ただ、それは自分たちのプレーに影響はほぼなかったです。やっぱり、相手の選手のプレーが良すぎたと思います」
中国ペアと決勝まで当たらない世界ランク2位。五輪前の国際大会で4大会連続優勝を成し遂げ、手に入れた“対抗馬”の立場だった。張本は少しだけ苦笑いを浮かべながら、勝者を称えた。