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「増田明美2世」と呼ばれた女子マラソンエリートの葛藤「負けるのが嫌で、練習が怖くなって…」名城大で加世田梨花が“嫉妬した”2人の選手 

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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photograph byL)AFLO、R)Takuya Sugiyama

posted2024/06/16 11:02

「増田明美2世」と呼ばれた女子マラソンエリートの葛藤「負けるのが嫌で、練習が怖くなって…」名城大で加世田梨花が“嫉妬した”2人の選手<Number Web> photograph by L)AFLO、R)Takuya Sugiyama

ブダペスト世界陸上日本代表など、女子マラソンのトップ戦線で挑戦を続ける加世田梨花

「『増田2世』は恐れ多かったですけど…」

 実績が伴ってくると、やがて「増田2世」と呼ばれるようになる。ロサンゼルスオリンピックの日本代表で、現在は解説者としてお馴染みの増田明美さんは同校の先輩だ。ガッツある走りが増田さんを彷彿とさせ、走りがマラソン向きと言われることも多かった。

 この頃からすでに本人も、漠然とだが将来はマラソンをやりたいと思うようになっていた。

「逆に私で良いんですかって思うくらい、『増田2世』と呼ばれることは恐れ多かったですけどね。でも、ざっくりと将来は増田さんみたいに実業団へ進んでマラソンをやるんだって。正直、頑張るのは実業団へ行ってからで、大学で燃え尽きることだけは絶対に避けようって思ってました」

 高校卒業時、多くの大学や実業団から入部の誘いを受けたが、その中から土地勘のない愛知の名城大を選んだ。その理由が振るっている。

「まだ実業団でやるには自分が未熟だとわかっていたので、強い大学で駅伝を勝ちたいなって。それで当時一番強かった『立命館が気になってます』って話を松澤(誠)先生(高校の顧問)にしたんです。そしたら、『すでに日本一の大学に行ってもつまらんだろう。どうせならお前が行って強くしろ。その方が楽しいぞ』って。それで、確かに!って思ったんですね(笑)」

大学時代に“嫉妬した”2人の選手「練習が怖くなったことも」

 名城大ではルーキーイヤーからトラックや駅伝で活躍。全日本大学女子駅伝では1年生ながらエース区間の5区を任され、区間記録を持つ立命大の選手を抜いて首位に順位を押し上げた。区間2位ながら、有言実行の走りでチームを12年振りの優勝に導く。

 加世田が在学中に、名城大は同駅伝を4連覇。まさにチームを常勝軍団へと導いた主役の一人だった。

 だが、こうした活躍のかげで、人知れず悩んだ時期もあったようだ。大学時代の挫折体験についてこう打ち明ける。

「周りからしたら順風満帆に思われていたかもしれないですけど、いま思うと意識が低かったです。とくに2年生の時に強い後輩、高松智美(ムセンビ)だったり、和田有菜が入ってきて、二人の強さに嫉妬したんですね。練習では当たり前のように最後ちぎられるし、今まで一人勝ちみたいにやっていたのが、そうじゃなくなったときにすごく動揺してしまって。負けるのが嫌だから、練習するのが怖くなったこともありました」

 もしケガをしたら、この状況から逃げられるかもしれない。そんな思いでいたら、本当に足を疲労骨折してしまった。ストレスから体重も増加し、メンタルもひどく落ち込んだ。

【次ページ】 常勝軍団のキャプテンとして

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