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卓球PRESSBACK NUMBER
「トップ選手ほど、注意できるのは親しかいない」反発する平野美宇を、母・真理子さんはどう支えたか?「娘たちは三者三様だから面白い」
posted2024/06/14 11:03
text by
高樹ミナMina Takagi
photograph by
L)Shigeki Yamamoto、R)AFLO
――平野卓球センターには現在何人くらいメンバーがいますか?
総勢80人ぐらいで子どもは50人程います。年齢層は幅広くて下は5歳から上は85歳までで、知的障害の方、耳に障害のある方、事情があって不登校になってしまったメンバーもいます。卓球をやりたいという気持ちさえあれば誰でも通ってもらえる、フリースクールみたいな場所なんですよ。長女の美宇も次女の世和も三女の亜子も、いろいろな個性の仲間たちと卓球を通じて触れ合い大きくなりました。
五輪選考レースでの出遅れ…美宇からの相談
――指導の中では、子どもの悩みを聞く場面も多いかと思います。例えば美宇さんにはどうされていますか?
普段は滅多に親に連絡してこない子なんですけど、大事な試合の前など精神状態が少し不安定な時は連絡が来ましたね。あの子の中では「もうやるしかない。諦めたくないから頑張りたい」という気持ちはある。だけど「頭の整理が出来ない。心のモヤモヤが取れない。ちょっとだけ背中を押してほしい」と思って私に連絡してきている。だからそんな時はまずオウム返しをします。例えば「緊張してプレッシャーがかかる」と美宇が言ったら、「そうだね、プレッシャーかかるよね」と繰り返す。これって「あなたのことを全部受け取めたよ」という姿勢です。そして、ネガティブな言葉の裏には「前向きになりたい」という気持ちがあるので、美宇の言葉にそれとなく私のポジティブな言葉を足して、だんだん前向きな話に寄せていきます。すると不思議なもので、美宇の心の奥にあったポジティブな気持ちが、美宇の口から自身の言葉で発せられるようになります。
――高度なテクニックですね。ぜひ具体例を教えて下さい。
パリオリンピックの代表選考レースが始まったばかりの頃、選考会の成績が振るわなかった美宇は選考ポイント8位と出遅れ、さらにポイント対象大会のTリーグ個人戦ではリーグ独自のポイント計算によって14位に後退しました。すると「14番目なんて信じられる?」とボヤく。「プレッシャーが大きいのに組み合わせがきつい」と言いたいんですよね。なので私は「そうだね、14番目か。信じられないね」とオウム返しをして、次に「美宇が言うみたいに14番目ってことはノーマークなんじゃない? 美宇を優勝候補だなんて思っている人、きっといないよ。美宇は今回“14番目の女”だよ」と。そうやって話しているうちに美宇もだんだん「そうじゃん、私は14番目の女。プレッシャーなんて何もないじゃん!」という感じになっていきました。子どもの話を「残念だね」で終わらせるのではなく、聞く側の発想の転換で前向きに持っていくんです。