濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
発達障害を公表したちゃんよたの本音「気持ちが少し楽になった」 セクシー女優レスラーが向き合った“個性”「(警察時代は)仕事ができなくて…」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/05/24 11:00
3月にはプロデュース興行を開催した女子プロレスラーのちゃんよた
「プロレスって、思ってたより自由でしたね」
警察官として勤務する中で、上司から一度にたくさんの指示をされるとうまく呑み込めなかった。プロレスでは試合後に先輩からアドバイスをもらうことがあり、それが完全には頭に入ってこないことも。そこでなぜだろうと悩むのではなく、今は「それが自分なんだ、別のやり方があるんだ」と納得できる。
「試合中は、自分の得意な攻撃パターンができている時はいいんです。問題は予想外の展開になった時。たぶん他の選手より“どうしよう”と慌ててしまうんですよ」
ただその感覚は奈七永、水波と対戦することで変わっていった。自分が思うような展開にならない時、一つの“正解”があってそれをやらなくてはと考えがちだったが、そうではないのだ。
「プロレスって、思ってたより自由でしたね。それを教わりました」
三富も、PPPTOKYOの選手たちに試合内容についての細かい指導は控えている。慶應大学出身、プロレスと同時に大手広告代理店の博報堂で働いていたこともある三富。会社を辞めてプロレスに専念すると発表した時も話題となり、さまざまなメディアに取り上げられた。それだけに既存のプロレス、根拠が分からない慣習への疑問を隠さない。はっきり「プロレス界の常識は反面教師です」と言う。
「プロレス界には“いい試合とはこういうもの”、“こういう場面ではこう動くべき”という謎のセオリーがあるんですよ。“こういうことはするもんじゃない”とか。もちろん受身とか相手にケガをさせない闘い方といった基本は身につけなければいけない。でもそれ以外は自由でいいはずです。プロレス界の常識がそんなに正しかったら、各団体もっとお客さんが入ってますよ(笑)。昔からこうだからではなく、お客さんが喜ぶことならそれは正しいと僕は思ってます」
発達障害も個性、セクシー女優で本格派プロレスラー
PPPTOKYOの主力選手である八須拳太郎は、ちゃんよたとともに“1分間格闘技”BreakingDownに出場。“胸毛ニキ”のニックネームで人気を博した。さらに4月には老舗MMA団体DEEPにも参戦。本人にも団体にも「格闘技で負けたらプロレスのキャリアに傷がつく」という考え方はない。所属選手にはトランスジェンダーの女子プロレスラーとしてデビューしたエチカ・ミヤビもいる(性別適合手術を受け、現在は欠場中)。
「これは八須やちゃんよたから学ばせてもらった部分も大きいんですが、PPPTOKYOの個性、魅力は“なりたい自分に世界一近づけるリング”ということじゃないかなと。団体の方向性の中で選手を役割、ポジションに当てはめるのではなく、それぞれがやりたいことをやるのが一番いい」
個々のブランディングも、選手まかせにはしない。
「たとえばSNSで使う言葉にしても、入念に戦略会議をしています。そこは広告代理店での経験が大きいですね。広告で使われる一つの言葉にどれだけの人が関わって、どれだけの時間とお金が使われているか知っているので。各プロレス団体もSNSの強化は意識しているんですけど、まだ選手の自主性とセンスに頼る部分が大きいです」
PPPTOKYOのモットーは「新進気鋭」。昭和・平成の「放映権料ビジネス」ではなく、新しいイベント運営の形を目指しているという。ちゃんよたの“発達障害を個性として受け入れる、セクシー女優かつ本格派プロレスラー”というあり方も、新しい時代の新しい団体だから生まれたと言えるのではないか。