甲子園の風BACK NUMBER
東北に出現“ナゾの193cm剛腕”は何者か?「どこで情報仕入れたんですか…」練習試合に栗山英樹の姿「衝撃のフォーム」「仙台育英からプロ志望」
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph byTakahiro Kikuchi
posted2024/05/11 06:00
仙台育英に現れた“ナゾの193cm高校生”…山口廉王は何者か?
左足をあまり上げず、右腕を斜めに振るフォームは絵にならない。それでも、川尻を立たせての投球練習では、ミットを「バチン!」と強く叩くボールを連発する。上体主導で投げる、変則的なパワー型右腕。それが山口の第一印象だった。
立ち投げを繰り返す山口に対し、川尻が焦れたように「山口さん、(捕手を座らせて)投げないの? 試合始まるよ?」と催促する。すると、山口はようやく川尻を座らせてピッチングを始める。その力感はキャッチボールの延長のように軽く、返球を受け取ってはすぐにモーションに入るため、雑にも感じられた。この時点で、「期待外れなのだろうか?」と思ってしまった。
だが、プレーボールのコールがかかると、すべては180度ひっくり返された。
印象激変「とんでもない投手を目撃」
先発マウンドに上がった山口の1球目を見て、「えっ!」と声をあげてしまった。ブルペンではほとんど足を上げていなかったのに、実戦のマウンドでは左足を高々と上げるフォームになっていたのだ。まるで佐々木朗希(ロッテ)のようにつま先を頭上まで上げるダイナミックなフォームで、ブルペンのピッチングとはまるで違う剛球を投げ込んでいた。
こちらの理解が追いつかず、パニック状態のまま試合が始まってしまった。
仙台育英には須江監督が「プロと同じ設定にしてもらって、正確な数字が出ます」と胸を張るスピードガンが常設されている。バックネット裏から表示されるスピードガンの数値は、常時140キロ台後半を叩き出していく。
北照の2番打者に対して投じた決め球のストレートは、リリース時に着火するのではないかと思わせるほどタイミングのはまった1球だった。捕手の川尻のミットを「バチィッ!」と打ち鳴らしたあと、スピードガンは「150」と表示された。のちに山口に聞くと、自己最速を1キロ更新する会心の1球だったという。
「あのボールは指にかかっている感覚があって、自分でもびっくりするくらい球が走りました」
山口は立ち上がりから三者三振の最高の投球を見せる。ただ剛速球で押すだけでなく、縦に大きく変化するカーブ、落差の大きなフォークなど変化球もコントロールできている。3回まで被安打1、奪三振5、与四死球0、失点0と無双する山口に、「自分はとんでもない投手を目撃しているのではないか?」と高揚を抑えられなかった。