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井上尚弥の“エグい右”でネリのアゴがゆがみ…決定的瞬間をとらえたカメラマンに聞く“恐怖のKOパンチ”のウラ側「あんな倒れ方になるのか…」
text by
福田直樹Naoki Fukuda
photograph byNaoki Fukuda
posted2024/05/10 11:04
衝撃的なTKOでルイス・ネリを沈め、東京ドームを熱狂させた井上尚弥。KOパンチの決定的瞬間を撮影した福田直樹氏に話を聞いた
ダウンを奪い返した場面は、まさに“想定通り”という印象です。ネリ選手の左が流れたところに、ショートの左フック。ラウンドの途中からすでに井上選手のペースになっていましたが、あのダウンでそれが決定的になりましたね。
井上尚弥の“覚醒”「ちょっと怖いくらいでした」
3ラウンド以降は、結果的に陣営が描いていたファイトプラン通りになったように思います。加えて、いつも以上に井上選手のアドレナリンが出ているのを感じました。マンガ的な表現ですが、試合のなかでさらにもう一段、覚醒したような……。ラウンドが進むごとに「面白くなってきた!」と気分が乗っていく――そんな印象を受けました。今まで見たことがないくらい、本当にイキイキしていましたから。トランス状態に入った感じで、撮っていてちょっと怖いくらいでした。
4ラウンドの挑発の場面も、ポール・バトラー戦の「手を出してこい」といった挑発とはまったく違う。完全に自分のゾーンに入っていましたね。おそらく、東京ドームという舞台も影響していたと思います。二段階、三段階とすこし遅れて、どよめきや歓声の波がやってくる。その声を感じながら、どんどんボルテージを高めていったのではないでしょうか。
そして5ラウンド、ふたたびコンパクトな左フックでダウンを奪った。スローで映像を確認したら“超ショート”な、まるでルイス・ラモン・カンパスがフェリックス・トリニダードをダウンさせた「15cmの左フック」を想起するような一撃でした。もちろん繰り返し練習してきたものだと思いますが、普通はどれだけ練習してもあんなパンチを打つのは難しいでしょう。
あの一撃で終わっていても、まったくおかしくなかった。立ち上がったネリ選手もタフだったと思います。もう少しディフェンスが甘い印象でしたが、想像よりもブロックが機能していて、本人も陣営も「井上は危険だ」と理解して対策を練ってきたのが伝わってきました。
「あの右で、あんな倒れ方になってしまうのか…」
6ラウンド、ガードの上からネリ選手にあえて打たせた場面は、井上選手の余裕が出ていましたね。東京ドームの大観衆に楽しんでもらおう、魅せるボクシングをしよう、と。そして直後の攻勢で一気に仕留めにいった。「これは終わるかも」と直感してカメラを構えました。