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井上尚弥“東京ドームが凍りついた初ダウン”そのとき何が起きていたのか? 本人も認めた「気負い、重圧」…ネリが崩れ落ちた劇的KOまでの内幕 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2024/05/07 17:03

井上尚弥“東京ドームが凍りついた初ダウン”そのとき何が起きていたのか? 本人も認めた「気負い、重圧」…ネリが崩れ落ちた劇的KOまでの内幕<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

初回にまさかのキャリア初ダウンを喫しながらも、ルイス・ネリを6回TKOで退けた井上尚弥。東京ドーム興行を大成功に導いた

 これで「チャラにできた。気持ち的にリセットできた」と感じた井上はここからさらに自らのボクシングを徹底していった。ダウンの直後、無理に攻めなかったように、3回もジャブ、右ボディ打ちと、丁寧なボクシングでゲームメイクした。井上が手を出さない局面でも圧力をかけ続けるため、攻めてリズムを作りたいネリはエンジンをふかすことができない。

グシャリと音が聞こえるかのような劇的KO

 3、4回、井上の顔面への右ストレートがいよいよ当たり始めてきた。さらにチャンピオンはガードを下げたり、グローブで「アゴを打ってこい」と挑発したり、すっかり余裕が出てきた振る舞いだ。

 劣勢のチャレンジャーは5回、ガードを固めて頭を下げ、前に出てきた。中間距離ではどうにもならないと悟り、強引なアタックを仕掛けてきたのだ。ところがそれで事態が打開できるほどモンスターは甘くない。引きつけてロープを背負った井上がネリのパンチを外して左フックをコンパクトに振り抜くと、パンテラが再び崩れ落ちた。

 6回、井上が強烈な右ボディストレート、そして左フック、右ストレートを打ち込むと、ネリの体が揺れた。「長い間、井上との対戦を待ち望んでいた」という元2階級制覇王者もプライドを見せ、最後の力を振り絞って左フックを打ち込むが、もはや逆転する力は残っていない。井上はネリをロープに追い詰め、右アッパー、そして右ストレートを叩き込むと、グシャリと音が聞こえるかのようにネリがダウン。マウスピースを吐き出すと、レフェリーが試合を止めた。

 まるで東京ドーム興行のために特別に用意されたドラマのようだった。「モンスター、まさかの初ダウン」というサプライズで始まり、ピンチを切り抜けるとすぐさま反撃のダウンを奪い、途中からは実力差を見せつけて、最後は劇的なフィニッシュ。勝利者インタビューで「みなさん、1ラウンド目のサプライズ、たまにはいかかでしょうか!」と問いかけた井上は紛れもない千両役者だった。

 東京ドーム興行を成功させ、井上はスーパースターとしてまた一つ階段を登った。モンスターはこの先も、まだ、だれも見たことのない景色を見ることになるのだろう。次戦は9月ごろ、IBFとWBOで1位にランクされるサム・グッドマン(オーストラリア)と対戦予定であることが試合後に明かされている。

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