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井上尚弥“東京ドームが凍りついた初ダウン”そのとき何が起きていたのか? 本人も認めた「気負い、重圧」…ネリが崩れ落ちた劇的KOまでの内幕
posted2024/05/07 17:03
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
日本が世界に誇るスーパーバンタム級4団体統一王者、井上尚弥(大橋)が5月6日、東京ドームで防衛戦を行い、元2階級制覇王者の挑戦者、ルイス・ネリ(メキシコ)に6回1分22秒TKO勝ち、4本のベルトを守った。最高のヒール役、ネリとの攻防は、井上が初回にダウンを喫する“サプライズ”で幕を開け、最後は豪快にネリを沈めるというこれ以上ない幕切れ。至高の一戦を振り返る――。
信じがたい光景に凍りついた東京ドーム
東京ドームでボクシングのイベントが開催されるのは、1990年2月にマイク・タイソンとジェームス・ダグラスが拳を交えた世界ヘビー級タイトルマッチ以来のこと。34年前は絶対王者のタイソンが伏兵のダグラスに敗れるという“世紀の番狂わせ”が起きたが、今回もまさかのサプライズが待っていた。
初回、アップライトに構えた井上は右フックを強振、いつになく力みが感じられた。サウスポーのネリは鋭いジャブから踏み込んで左フックを思い切り振ってくる。ネリは荒っぽい攻撃が売りだ。戦前、「死を覚悟して戦う」と決意を述べていたネリがその言葉通り、「井上を相手にして臆さない」という最初のハードルをクリアしたように思えた。
しかし、「ネリはビビってないな」などという“上から目線”は、パンテラ(ヒョウ)の異名を持つメキシカンの強打によって打ち砕かれる。両者の距離が近づき、井上が空間を作って左アッパーを突き上げ、右につなげようとした瞬間だった。ネリの左フックが顔面をとらえると、井上がキャンバスに落下。モンスターが倒れていくという信じがたい光景に、東京ドームを埋め尽くした4万3000人の動きがピタリと止まる。大橋秀行会長の「寿命が縮まった」というコメントは紛れもない本心だろう。
窮地で見せつけた“ディフェンスの基本技術”
驚いたように目を見開いた井上の表情がモニターにアップで映し出される。試合後の記者会見で、本人は次のように振り返った。
「ダメージはさほどなかった。パンチの軌道が読めなかった。1ラウンド目ということもあってダウンはしたけど、引きずることはなく、2ラウンド目からポイントを計算していこうかと。そこは冷静に戦えた」