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山川穂高32歳「ヒール砲」の宿命…モメにモメたFA移籍→古巣西武戦で大ブーイング→敵地を黙らせる“史上3度目の満塁弾2発”は伝説になるか
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byNanae Suzuki
posted2024/04/16 06:00
古巣・西武相手にベルーナドームで2打席連続満塁ホームランを放った山川穂高。ソフトバンクの4番として今後どうなるか
4月12日の西武-ソフトバンク第1戦の後、西武の捕手・古賀悠斗は「ブーイングが鳴りやまないので、やりづらさはありました。投手(今井達也)もたぶんやりづらかったと思います。起こっていることはしょうがないので、その中でやるしかなかったですね」と語っている。
そして翌日の12日、異様な空気が続く中で、山川穂高は歴史的な「グランドスラム2発」を打った。
山川はソフトバンクへの入団会見で、不祥事を起こした選手の常套句である「試合で頑張ることで償いたい」とは言わなかった。「一連の私の不祥事によって、ライオンズファン、ライオンズ球団、プロ野球ファン、すべての関係者に多大なるご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。本当に申し訳ございません」と謝罪から始め「マイナスからのスタート」と言い切った。自身の起こしたことの意味を理解していたのだ。
「ヒール」として相手に憎まれるような成績を残せるか
2月の春季キャンプでも、山川穂高の写真は掲げられなかった。とにかく異例尽くしのスタートではあった。
しかしシーズンが始まってしまえば、野球に専念するしかない。どんな針の筵であれ、野球をするためには足を踏み入れるしかないし、足を踏み入れれば全力を尽くすしかない。
そういう意味で超逆風の中、空前の大活躍をした山川は「野球選手」だったと言えるだろう。西武のファンから今後もブーイングが起きるのは仕方がないが、そこに一定の自制心があるのが「良きファン」とも言える。
ある意味、山川穂高は「ヒール(悪役)」として今後のキャリアを重ねていくことになるのだろう。それが彼の宿命である。そんな中で「相手に憎まれるような」成績を挙げることが求められる。
日曜日のベルーナはブーイングがトーンダウンしたという
野球以外の例を引いて恐縮だが――昭和戦前の昔、圧倒的な強さを見せた横綱・玉錦三右衛門は、当時伸び盛りの花形力士だった双葉山定次(のち横綱)を、木っ端みじんに退けて、女性ファンから非難の声を浴びせられたという。
しかし古い角通(相撲ファン)いわく、「玉錦、負けてやれ」との声を背に、傲然と仕切る玉錦は、惚れ惚れするほど格好が良かったとのことである。
もちろん、プライベートでのトラブルなどもってのほかだし、今後は社会貢献もすべきである。ただ山川は、敵地ファンの刺すようなまなざしを感じながら成績を積み上げていくことで、いつしか非難が賞賛に変わるだろう。