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濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
試合直前のカード変更「俺にここまで求めるのか…」それでもなぜ青木真也はリネカー戦を受け入れた? 支えられた「ケンドー・カシンの言葉」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byONE Championship
posted2024/02/15 17:00
ONE Championship日本大会で急遽ジョン・リネカーと対戦した青木真也
リネカーもUFCで活躍し、ONEでチャンピオンになった選手だが階級はバンタム級だ。ライト級の青木より2階級も下になる。なおかつ急なカード変更ということもあり「下がる(負ける)可能性もあるなと」青木は感じていた。
「気持ちは作れてないですよ。いいたとえじゃないけど、こっちは特攻隊の気持ちでいたわけですよ。特攻に志願して、怖くないように覚醒剤も飲んだくらいのタイミング(苦笑)。そこで“飛行機が整備不良で飛びません”となってしまった」
そんな状態の選手に試合をしてほしいというのか、と青木は感じた。
「リネカー相手じゃ勝ち負け以前に死ねない。チャトリには“俺のことどう思ってんの? 大事に思ってんの?”と問いかけて。チャトリも“経営者は経営者で孤独なんだよ”みたいなことを言ってきて。猛烈な“痴話喧嘩”でしたね(笑)」
それでも青木がリネカー戦を受けた理由
今回の試合で、ONEと青木の契約期間が終わるとも言われていた。そういうタイミングで互いの気持ちをぶつけ合い、青木はリネカー戦を受けることになる。
結果は1ラウンド、リアネイキッドチョークで一本勝ち。勝って喜びが爆発するような試合ではなかった。それでも試合をしたのはなぜか。
「僕が“競技”ではなく“興行”の人間だからですよ。競技として考えるなら、ノースカットが試合をしないのなら僕の不戦勝。でも僕は何よりも興行を成立させなきゃいけないと考えるので“青木真也の試合が見られなかった”という事態は避けたい。
状況が整わないと試合をしないっていうのはアマチュアですよ。飲食店として考えたら分かるはず。いい食材とモチベーションとコンディションが揃った時だけ美味いものを作れるっていうのはプロじゃない。プロの料理人は毎日、一定のクオリティの味をブレずに提供しないと」
競技としての試合で勝つ腕があり、その上で興行に貢献する。それが青木真也の考える“仕事”だ。そして「僕は仕事として試合をしているので」とも。
「でも、今回の試合を受けた自分は凄いなと客観的に思いますよ。“青木真也が大会当日になって代替カードを受けた”ということ自体に何か感じたり、学びになったという人は多いと思う。そこに意味があったなと。他の選手ができないことをやれたと思いますね」