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「最初はケンカが強くなれると(笑)」問題児を変えた日本人女性コーチ「ユーコの親身な指導が…」ブラジル女性金メダリスト柔道家の感謝
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byAFP/JIJI PRESS
posted2023/11/25 18:31
リオ五輪を目指す過程のラファエラ・シウバと藤井裕子さん
「あれは本当にショックだった。精神的に立ち直るのにかなりの時間がかかったわ」
――それでも、気を取り直して練習に励み、藤井裕子さんの指導を受けて2016年リオ五輪で見事に優勝します。
「ユーコは技術を教えるのが上手で、とても親身になって指導してくれる。それに、私のライバルのことを徹底的に研究し、攻略法を授けてくれた。これがとても役に立った」
――でも、一時は裕子さんを遠ざけた時期もあったと聞きました。
「リオ五輪の前、ブラジル代表全体でなかなか結果が出ない時期があって、代表スタッフの間から『ユーコの指導に問題がある』との声が出た。私もそれに惑わされて一時期、彼女の指導を受けるのをためらったけど、『やっぱりユーコの指導は間違っていない』と思い直した。それで、またユーコの指導を受けることにしたの。リオ五輪で最高の結果が出たのはユーコのお陰なのよ」
スラム街の問題児だった私が、柔道のお陰で…
――ただ、2019年8月の大会(パン・アメリカン大会)で優勝したものの、試合後のドーピング検査で陽性反応が出て2年間の出場停止処分を受けた。このため、2020年東京五輪(実施は2021年)には出場できませんでした。
「私にとって、柔道は世界で最も大切なもの。その柔道ができなくなるようなことをするはずがない」(注:禁止薬物フェノテロールの陽性反応が出た。この薬物は、喘息の治療に用いられることがある。ラファエラは「喘息を患ってこの薬物を摂取していた友人の赤ちゃんと接触したせいとしか考えられない。意図的な摂取ではない」と釈明したが、国際柔道連盟は処分を取り下げなかった)。
――その後、2021年11月に出場停止処分が解け、2022年10月の世界選手権(タシケント=ウズベキスタン)の決勝で舟久保遥香を破って優勝し、復活を遂げました。11月のパン・アメリカン大会でも優勝し、世界ランキングを4位まで上げてきた。来年は、32歳でパリ五輪を迎えます。
「当然、出場して2つ目の金メダルを手にしたい。2028年のロサンゼルス五輪まで現役を続け、その後は指導者になりたいと思っています」
――「あなたにとって柔道は何ですか」とラケルに聞いたら、「柔道のお陰で人生が一変した」と語っていました。あなたにも同じ問いをしたいと思います。
「私も同じよ。スラム街の問題児だった私が、柔道のお陰で身を立てることができた。そして、今も、またこれからも人生を柔道に捧げる――。私に柔道を授けてくれた日本と日本人、そして以前からずっと私を指導してくれるユーコ・センセイに心から感謝しています」
◇ ◇ ◇
五輪金メダリストを含むブラジルの柔道関係者の多くから、藤井裕子さんへの賛辞と柔道というスポーツへの感謝の言葉を聞いた。
裕子さん自身が「私の仕事は、家族全員が成し遂げてきた」と繰り返し語っていることを考え合わせると、裕子さんへ向けられた言葉は藤井一家全員への賛辞と受け止めていいはずだ。
<第6回に続く>