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藤井聡太でも伊藤匠でもない…小3の全国大会で優勝、藤井世代“もうひとりの天才”はなぜプロに進まなかった?「将棋を指す行為が“嫌い”になった」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/11/10 06:00
藤井聡太と伊藤匠。2人が出場した小学3年の全国大会で優勝したのが川島滉生さんだ。本人に話を聞いた
「小学生くらいから、勝つことを宿命づけられていた感じがあったり、周りの大人からも〈プロになるんだよね?〉〈タイトルも狙えるのだろう〉という風に思われていて、そういったプレッシャーのようなものを抱えながらずっと将棋をやっていたんです。その怖さが蓄積されていくことで、“将棋を指す”行為が嫌いになったんだと思うんです」
同じほどの努力量を人生でささげるのなら…
力があるがゆえに過度な期待をされてしまう。その重圧が遠因となり競技から離れてしまう人は多い。川島さんは将棋の世界で、その苦しさを味わっていたのだった。
もう1つ、プロを目指さないと決めた理由として挙げたのは、1年に4人しか四段昇段ができない、すなわちプロになれないという「奨励会」のハードルの高さだった。
「奨励会は、かなり厳しい制度です。そもそも奨励会自体に受かる時点で天才なわけですし、その天才が集う中でさらにしのぎを削って、超天才かつ努力を続けた人だけがプロになれる。それと同じほどの努力量を人生でささげるのなら、棋士を目指すより、一般社会でした方が(リターンが)いいのでは……と、言い方は悪いかもしれないのですが、判断したんです」
彼の本当の強さが分かったのは小2の春
川島さんは「自主性を尊重してくれる親だったので、自分の決めた道を思い通りに歩ませてくれました」と両親にも感謝していた。年の頃なら10歳にして、その現実的な未来予想を行っていた頭脳明晰さにも驚かされる。川島さんは「プロになったとして、どこまでやれるかなということには興味があるんです。ただその道を選ぶべきだったとは思わないし、その選択にも後悔は全くなくて、心が動くことはないんです」とも語る。自分をこれほどまで客観視できる人物も、珍しい。
そんな川島さんにとって、人生の指針を決める上で大きな影響を与えた人物がいる。それが、「たっくん」こと伊藤である。