「一時期、ちょっとスピードを追い求めている時期があったんです。もっと体を大きく使って球を速くしようとして……。でも監督から『もう少し球の出所を隠したほうがいいぞ』とアドバイスを受けて気づいたんです。自主練習で高校時代のように2枚ネットを立てて投球動作をしたり原点に戻って、3年生からはずっとこのフォームで投げています」

©Hideki Sugiyama

スカウト「コマ送りにしても手の出どころが見えない」

　古謝は「打者評価の高いピッチャー」と言われる。横から見るよりも、打席に立ってみてつくづく、その凄さが分かるというのだ。「手が完全に隠れたところからパッと出てくるから、高めの球でもバッターがびっくりして手を出してしまう。ボール自体もスピン量があって、初速と終速の差がなくてベース上での伸びがあるんです」と齊藤監督。スカウトから「映像をコマ送りにしても手の出どころが見えない」と驚かれたこともあった。古謝は言う。

「キャッチボール相手にも、急にボールが出てきて怖いと言われるので、バッターが見にくいのかなって。高めも振らせられるというのは、自分のまっすぐの持ち味でもあると思うので、今後も意図して投げていきたいと思います」

キャッチボール相手に「怖い」と言われることも　©Haruka Sato

野球以外に興味があることは「キャンプ」

　大学に入り体重は15kg以上、球速は20km近くもアップして今、“実りの秋”を迎えた。プロ野球への道が一気に開けたシンデレラストーリーの主役は、未来への夢をこんなふうに思い描く。

「成瀬投手や阪神の伊藤将司投手のように、出どころが見づらいフォームやボールのキレで打者を打ち取っていく姿を見て、あんなふうに活躍したいなと思います。少しでも長い間、先発でやれるように頑張っていきたい」

　いま、野球以外に興味があることは「キャンプ」だそう。「自然が好き。ビルを見るよりは、山とか川とか海を見た方が落ち着きますね」と古謝。その独特の投球フォームのように、不意に現れた新星が楽天ファンを驚かせる活躍を見せるのか。“隅っこ好き”の左腕は、静かに闘志を燃やしている。