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将棋PRESSBACK NUMBER
天を見上げた永瀬拓矢の目は、充血していた…記者が見た“テレビに映らなかった”八冠誕生の瞬間「10-0から逆転がある…将棋は残酷だ」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/10/18 06:01
直後の感想戦で対局を振り返る永瀬拓矢。棋界きっての努力家で知られる王座は藤井聡太を何度も追い詰めるも防衛は果たせなかった
将棋についてそこまで詳しくない、いわゆる“ライト層向け”の答えをもらいたいという質問者の意図だったのかな……と感じたが、藤井竜王・名人の答えに“らしさ”を感じた。
「一言ではもちろん言えないかなという風には思うんですけど、将棋は取った駒を持ち駒として使えるというのが大きな1つの特徴です。それによって、中盤・終盤と局面が進んでいくにつれてどんどん複雑になっていくところが、指していて面白いところじゃないかなと思っています。私も将棋を指す中で、“そういった局面に出会えたらいいな”と思いながら、指しています」
モチベーションとなっている“未知の局面”
持ち駒を取って使える分、局面がどんどん複雑化する。その難しさを醍醐味ととらえるとともに“未知の局面”に出会うことに喜びを感じる。その未知との遭遇が、不世出の天才にとって大きなモチベーションとなっているのだ。
対局後の会見が終わったのは、23時過ぎ。その直後に一夜明け会見は朝から始まるとのアナウンスがあった。
今年6月1日に最年少名人を獲得した時もそうだったが、長時間にわたって頭脳を研ぎ澄ます対局を終えたのち、無数のフラッシュを浴びながら、笑顔で取材に応対する。将棋界の第一人者としての役割を、藤井竜王・名人が21歳にして自然体で全うする姿には、畏敬の念すら感じた。
よく眠れましたか?
《10月12日:一夜明け会見でも感じた藤井将棋の凄み》
起床して朝のNHKニュースを見ていると、藤井八冠の師匠である杉本昌隆八段が生出演していた。「忙しいかと思うので、まだ連絡は取っていないです」とアナウンサーに笑顔で返していた。愛弟子の多忙さを案じる師匠の愛情を感じつつ、会見へと向かった。
鮮やかな秋晴れの光が差し込む中での会見は、生中継予定のテレビ局もあったようで、開始前からせわしなくテレビクルーが動いていた。テレビカメラは目視したところ20台ほど。スーツ姿で現れた藤井八冠は両手で「8」のポーズを作ったり、花束を贈呈されるなどのフォトセッションで終始穏やかな笑顔を浮かべていた。
続く会見では、前日に続いて驚かされるコメントが数多かった。まず最初の質問は、「八冠達成を成し遂げた夜の過ごし方、よく眠れましたか?」だった。