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ラグビーW杯前の“地獄の合宿中”に突然のLINE「人生で一番辛かった時っていつ?」夫の珍しい弱音に妻は…〈いつも明るい“カッキー”の素顔〉 

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佐藤春佳

佐藤春佳Haruka Sato

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posted2023/09/25 11:08

ラグビーW杯前の“地獄の合宿中”に突然のLINE「人生で一番辛かった時っていつ?」夫の珍しい弱音に妻は…〈いつも明るい“カッキー”の素顔〉<Number Web> photograph by KYODO

スクラムはもちろん、迫力あるボールキャリーや守備での貢献も光るプロップ垣永真之介(31歳)。W杯デビューに向けて虎視眈々と準備に努める

 リーグワンの2022-23シーズンでは13試合に出場し結果を残した垣永に、夢への道が拓ける。2023年5月、千葉と宮崎で行う代表合宿のメンバーに名を連ねた。W杯に向けて最後の試練。フィジカルだけでなくメンタルも「追い込む」ことを目的にした恒例の“地獄の合宿”は、選手たちが「過去イチ辛い」、「家族には見せられない練習」と声を揃えたハードなメニューが連日用意されていた。

 垣永も香奈さんと電話やメッセージでやりとりする中で珍しく「本当にヤバい」と珍しく弱音を吐いていたというが、宮崎合宿中のある日、突然LINEで「香奈ちゃんが人生で一番辛かった時っていつ?」という連絡が来たときは流石に心配したと明かす。

「これはただ事じゃない、いよいよヤバいなって(笑)。私もそこまで辛い経験をしたことがないし、何を返信しても不正解なんじゃないかと悩みました」

 考えに考え抜いて、香奈さんはメッセージを返した。

「『W杯を経験して、その最高の景色を知っている人はどんなに苦しくてもそこがあると思えば頑張れるかもしれないけど、それを知らない真ちゃんは多分、他の人よりもきついよね。本当に頑張っているね』と。頑張っている人にこれ以上頑張れとは言えなくて。それほど苦しい練習を頑張っても、もしかしたら落とされるかもしれないと思ってしまっていたかもしれない。2回経験していますからね。だからそんな中で耐え抜いたのは、本当に凄いことだなと思うんです」

垣永が本気で願ってきた「場所」

 血を吐くような厳しい練習。怪我との戦いや、代表入りを懸けた激しい争いや重圧……。苦しい思いをしてまでも目指すW杯とは何なのか。そこに立ち見える景色はどんな色をしているのか。香奈さんには、秘めた思いがある。

「2015年も19年もダメで……。いつだったか忘れたけれど、ある時主人が『俺が本気で願ったことは叶わないんだ』と言うようなことをポロッと言ったことがあったんです。なんか私、そういうふうには思って欲しくなくて。だからW杯がどういうものか私には分からないけれど、主人が本気で願ってきた場所に1回は出させてあげたい、って。それだけは思ってきました」

 願い続けた夢舞台の戦いが始まった。激しいぶつかり合いに無事を祈りながらも、晴れやかに駆けるフィールドに家族の願いも結実の時を迎える。

(全2回/前編「聖地・秩父宮のプロポーズ」から読む)

垣永真之介(かきなが・しんのすけ)

1991年12月19日、福岡県出身。180cm、115kg。東京サントリーサンゴリアス。東福岡高時代は花園に3度出場し、2回の全国優勝を経験。早稲田大でもレギュラーを獲得し、2013年度には主将を務めた。2014年にサンゴリアスに加入し、同年11月に日本代表初キャップを獲得。スーパーラグビー・サンウルブズの一員としても活躍した。ポジションはプロップ。愛称は「カッキー」

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プロポーズは“聖地・秩父宮”、結婚直後に靭帯断裂…ラグビーW杯に人生を懸ける夫を支えたラガーマンの妻「プロップは優しくて力持ち」

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