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引退から5年のペドロサ37歳が現役を蹴散らし4位入賞、マルケス絶賛の衰えぬテクニックと極上のマシン開発能力《KTM躍進の立役者》 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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posted2023/09/15 11:01

引退から5年のペドロサ37歳が現役を蹴散らし4位入賞、マルケス絶賛の衰えぬテクニックと極上のマシン開発能力《KTM躍進の立役者》<Number Web> photograph by Satoshi Endo

現役を引退して5年になるにもかかわらず、ワイルドカード参戦のサンマリノGPで4位入賞したペドロサ

 ペドロサがいた時代のホンダはマシン作りで大外しすることもなく、技術競争の激しいMotoGPにおいてキングでいられた。だが、ペドロサが去った18年以降でホンダがタイトルを獲得したのは、ペドロサの遺産とも言える19年だけ。20年以降はマルケスが怪我をしたこともあり、タイトル争いから遠ざかって長い低迷が続いている。対照的に17年にMotoGPへの挑戦を開始したKTMのパフォーマンスは、この数年でドゥカティ陣営を脅かすまでになった。

 その要因はやはり、ペドロサが作る乗りやすいバイクにあるのだろう。サンマリノGPでペドロサが乗ったのは、KTMが極秘裏にテストを進めてきたカーボンフレームのマシンだった。それでドゥカティ勢に肉薄したのは、ペドロサの開発能力の高さの証左と言えよう。決勝レースの翌日には、レギュラーライダーのブラッド・ビンダーとジャック・ミラーがカーボンフレームのマシンで走行し、新兵器のポテンシャルを探っていた。

マルケスも称賛したスーパーラップ

 それにしても、サンマリノGPのペドロサの存在感は圧倒的だった。ミサノでテスト走行をしていたとはいえ、KTMはもちろん、ほかのレギュラーライダーをも凌ぐパフォーマンスには周囲も驚くばかりだった。ペドロサの今大会の目標はQ2に進出することだったが、Q2でフロントロー争い、決勝レースでは表彰台争いと、とにかく素晴らしい走りだった。

 そのQ2では、かつてペドロサのチームメートだったマルケスが、低迷続きのホンダRC213Vでペドロサを追走して、今季ベストの6番手グリッドを獲得した。マルケスは「ダニはすごく速かった。素晴らしかった」と引退から5年後のスーパーラップを賞賛。

 一方のダニも、「彼はいまマシンのパフォーマンスに苦しんでいるが、後ろについたからと言ってもタイムが出せるわけじゃないし、マルクもいい走りをしたということ。8回もタイトルを獲ったマルクに賞賛されることは僕にとっても特別なことだよ」とコメントしていた。

 ペドロサが現役で走っていた頃、ホンダのライダーたちはバイクの仕様に悩み、ストーナーかペドロサかマルケスか……という局面になったとき、間違いなくペドロサ仕様の乗りやすいマシンを選択していた。

 現在、KTMはコンストラクターズポイントでドゥカティに続き2位につけている。現役としてホンダの全盛時代を築き、テストライダーとしてKTMを頂点に押し上げようとしているペドロサの存在は、頂点を目指す若い小柄なライダーにとっていまだに大きな目標であり続ける。

 サンマリノのGPは、いいバイクを作るためには人間の感性がとても重要だということを痛烈に感じさせるレースだった。

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