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「“無敗の怪物”井上尚弥は天才ではない…」なぜ父親はずっと否定的だったのか? 13年前、井上尚弥が日本人ボクサーに“最後に負けた日” 

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前田衷

前田衷Makoto Maeda

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posted2023/07/23 11:02

「“無敗の怪物”井上尚弥は天才ではない…」なぜ父親はずっと否定的だったのか? 13年前、井上尚弥が日本人ボクサーに“最後に負けた日”<Number Web> photograph by Getty Images

プロ24戦24勝無敗(21KO)の井上尚弥30歳。スーパーバンタム級へ階級を上げ、王者フルトンとのタイトルマッチ(7月25日)に臨む

 しかし当時でも減量期に入る前のスパーでは3階級以上重い相手を圧倒していた。それゆえ、一気に2階級を上げてWBOスーパーフライ級王者オマール・ナルバエス(アルゼンチン)に挑んだ試合は衝撃的だった。

 2014年12月30日東京体育館。迎え撃つ王者はそれまで46戦して敗北はたった一度だけ。その試合とは3年前に1階級上のノニト・ドネア(比国)に挑んだ一戦だった。

 21歳と若い井上は老かいなチャンピオンに相当苦しめられるのではないかと予想されたが、立ち上がりから井上がパワーで圧倒。第2ラウンドに10カウントを聞かせるまで計4度もダウンさせたのだ。

 フィニッシュは左フックのボディー打ち。以前は「ボディーで倒れるなんて情けない、練習していない証拠」などと言われたこともあったが、十分鍛えていても井上のボディーブローには耐えられない。今ならこれが井上の得意の武器であることは誰でも知っている。昨年のドネア戦まで、ボディーでダウンを奪った試合は何度もあるのだ。

 この時の衝撃は、単に2階級制覇を達成したというだけでなく、新時代の到来を予感させた。その後スーパーフライ級王座は3年間で7度防衛し、うち6度はKOもしくはTKO勝ちによるものだった。

世界中のファンを驚かせたWBSS

 日本のモンスターの名声を世界的に決定づけたのはバンタム級に上がってからである。2018年は2度の世界戦をいずれも初回KO勝ち。ジェイミー・マクドネル(英国)を初回TKOで破りWBA王座を奪うと、WBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)に参加して初戦は元スーパー王者を見事な右カウンター一発でKO。準決勝は19勝無敗のIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2回左フックのボディー攻めで沈め、新たなベルトをコレクションに加えた。世界チャンピオン級の相手を1、2回で一蹴する井上に世界中のファンが驚嘆した。

 そうして迎えた2019年11月7日、超満員のさいたまスーパーアリーナ、ドネアを相手にしたWBSS決勝。36歳の元5階級王者が予想外のしぶとさを見せ、2回には左フックを直撃されて右目を傷め、中盤の井上はそれまで見せたことのないピンチに立たされた。しかし終盤11回には左フックをわき腹に決めてダウンを奪い、3-0判定勝ちしてアリ・トロフィーを手にした。

【次ページ】 アリやハグラー級の「異名」に

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