盟友・千代大海が涙したエピソードの真実

――ライバルというともう一人、現・九重親方の千代大海関がいます。昨年、九重親方に伺った話なのですが、千代大海関の現役最後の取組で魁皇関が勝利した際に、先代・九重親方の千代の富士関の幕内最多勝記録を更新（808勝・当時）したとしてインタビュールームに呼ばれたけれども断った、と。九重親方は「魁皇さんの気遣いに感動した」と熱弁していました。

　まあ、大海は話がうまいからね（笑）。そもそも千代の富士さん、つまり当時の九重親方は、誰もが尊敬する師匠なわけで……。九重部屋に出稽古に行くと「魁皇、今日はうちで飯食っていけよ」とすごく親切にしてくれました。そんな大横綱に対して、自分の記録なんて自慢できるようなものではない。それに、現役をやめるかどうかの瀬戸際だった大海のことを考えれば、記録だなんだって喋っている場合じゃないんですよ。本人もそんな話は聞きたくないだろうからね。そう思って断ったのは覚えていますよ。

――また大関在位記録に関しても、65場所は千代大海関と並ぶトップタイ記録ですが、カド番を消化すればもう1場所長く在位することもできたのに、そうせずに退かれたと……。ちなみにこれも、九重親方が「魁皇さんのカッコよすぎるエピソード」としてお話しされていました（笑）。

　いやいや、自分は記録とかそういうのを気にしないほうなんですよ、本当に（笑）。ただ、最後の場所（2011年名古屋場所）は「これに出れば大海と同じ記録になるから頑張ろうかな」くらいの気持ちで土俵に立ったんです。そこまで気にしていなかったけど、結果的に並ぶことができたので。カド番を消化しなかったのも、あまり深い意味はないんですよ。10日目の琴欧洲戦で負けたときに「悔しい」と思えなかった。その気持ちがなくなった時点で、もう勝負師として終わりだなと。その日のうちに「やめます」と師匠に話をしました。

――魁皇関と千代大海関。大関として長く苦楽を共にしてきた二人にしかわからないことも、少なからずあったのでは？

　これは大海も話していたと思うけど、巡業中に二人で「俺たち、やめるタイミングをなくしたよな」って会話をしたことがあったんです。自分たちの引き際はいったいどこなんだろうって、現役晩年はよく考えていました。やっぱり、武双山が先にやめたとき、ものすごい寂しさがあったんですね。ずっと一緒に頑張ってきたライバルがいなくなる喪失感というか……。でも、そこで次のライバルになってくれたのが千代大海でした。自分が長く続けることができたのは、この二人の影響が大きかった。だから大海がやめてしまったときは、自分だけ土俵に取り残されたような、なんとも言えない気持ちになりました。

＜#3に続く＞

#3に続く

現役時代の魁皇は“横綱に推す声”をどう受け止めていた？「貴乃花のときもそうでしたが…」優勝5回、“横綱にもっとも近づいた名大関”の告白