楕円球を追う夢を前にした青春の蹉跌は、しかしながら、近藤さんの人生における大きなターニングポイントになった。アメフトへの情熱を胸に、意を決して再び海を渡ったのだ。

「地元の鴨沂(おうき)高校に通うことになったんですが、いかんせんアメフト部がない。それで両親になんとか頼み込んで、サンディエゴにあるパウウェイ高校というところに留学することができたんです。なぜサンディエゴだったかというと、僕は『トップガン』が好きで、ロケ地だったから。つまり、軍隊ものが好きなんですよね（笑）。パウウェイ高校には、現地駐在の日本人の子どもが結構いたんだけれども、アメフト部は当然僕ひとり。向こうの高校は4年制ですから、いきなりどこの馬の骨かもわからない日本人が2年生として入ってきたわけで、それはもう奇異の目で見られましたよ。僕は178cmですが、向こうの選手たちと比べたらかなり小さいですし、『どうせすぐ辞めるだろう』という感じで。それに、最初はやっぱり差別や偏見もある。ここでは話せないようなことも言われました。でも根性ですよね。アメフトをやりに留学してきてるのに、ロクに試合にも出られないんじゃ洒落にならないですから、もう死に物狂いでした」

©Yuki Suenaga

垂直跳び103cmという脅威の身体能力

　根性だけではなく、近藤さんは類い稀な運動能力も備えていた。大学時代の選手名鑑によると、「垂直跳び103cm」というにわかには信じられない記述がある。

「本当です。100cmまでしか測れなかったんですけど、それをちょっと超えたから、103cm（笑）。50mは5秒9。だから、向こうの選手を相手にしてスピードでは負ける気はしませんでした。そして、しばらくして初めて出してもらった試合が運命を変えました。試合開始直後の1フレーム目のキックオフ、スペシャルチーム（キックプレーで出るユニット）で出た僕は『アピールするのはここしかない！』と狂ったように猛然とラッシュをかけて、相手のリターナーに最高のタックルを決めたんです。それでベンチに戻ってきたら『お前すごいな！』とチームメイト全員から祝福された。明らかに僕を見下していた周囲の目が変わったのを、今でも覚えています」

アメリカの面白いところである「結果がすべて」

　このタックルをきっかけに評価を高めた謎の日本人は、攻撃側のRB（ランニングバック）から、守備範囲の広さとスピードが求められるFS（フリーセーフティ）にコンバートされる。

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