「お客さんの前では寡黙だけど、仲間内になると一緒に呑んで楽しいやつ。振る舞い一つにしてもカッコよかったですね。同期でも憧れますよ。特に自分の現役晩年に彼が大関になってから、余裕もできてよく見るようになりました。白鵬さんぐらいまで行くと神格化しちゃってるんで演じられない。無理です（笑）。もうちょっと泥臭い稀勢の里の方がよかったんです」

　千代の国＋稀勢の里＝猿谷。演じる役の個性が定まり、相撲の稽古も一層熱を帯びていった。稽古場では澤田がリーダーシップを取り、猿将部屋のキャスト陣を引っ張った。

役者陣も四股300回「腰が割れるかどうか」

　同部屋の役者陣にノルマとして課したのは四股300回。

「現役の力士も見てくれるだろうから、元力士の僕が出るにあたって恥ずかしいことはしたくなかった。そうしないと弟まで馬鹿にされてしまいそうで。せめてそれぐらいは踏めるようになろうと言いました。みんなに踏ませてたら、めっちゃ嫌われましたけど（笑）。『俺ら強くなりたいわけじゃないんです』『いや、わかってるよ』って」

　稽古の日は、い～ち！ に～！ と順番にかけ声をかけ、土俵に汗を滴らせて回数を重ねていく。現役時代、九重部屋では1時間休みなしで四股を踏み続けるのが日課で、回数で言えば500回はくだらなかった。

「やっぱり相撲がきれいに見えるかって腰が割れる（両足を開いた状態で腰を低く落とす）かどうかだと思うんですよ。それを作るのって四股なんで、本当にもう相撲の基礎のキです」

　エピソードが進むごとに力士らしく本格化していく役者陣の体つきも話題となったが、その裏には力士と変わらぬ地道な鍛錬があった。気づけば、引退時は108kgだった澤田の体重も20kg以上増えていた。

　そして、撮影開始後も妥協なく突き詰められていくリアリティ。そこで澤田は不思議な感覚に襲われるのだった。

（つづく）

◇◇◇

#2では、驚かされたあの俳優の役作りや「親父」と慕った師匠・千代の富士との最後の会話を明かしている。

#2に続く

サンクチュアリ俳優・猿谷は千代の富士の“付け人”だった…！「僕の断髪式で号泣したんです…」実は“優しい親父”の素顔と忘れられない最後の会話

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。