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マルケスの不屈の心がついに折れた…ドイツGPで転倒5回の真相と、4人中3人が負傷欠場のホンダのレース運営責任
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph byGetty Images
posted2023/06/23 11:00
ドイツGPの予選Q2で2度目、週末を通じて4度目の転倒を喫したマルケス
Q1とQ2はともに15分間で行われるが、その2回のセッションで3回も転倒するライダーなど見たことがない。「ザクセンキング」と呼ばれるマルケスらしい闘志あふれる走りで、本人も「予選では全力を尽くした」と語ったが、それでもトップのフランチェスコ・バニャイアから0.604秒差の7番手がやっとだった。
予選後に行われた15周のスプリントレースでは、「どこまでいけるか1周目にトライしたが、いいフィーリングがなかったのでアタックせず完走を目指した」と11位に終わる。マルケスが得意とするサーキットにもかかわらず、全力で走れば限界を超えて転び、限界を超えないように走ればトップ10に届かない。これが、現状のRC213Vのパフォーマンスなんだろうと思った。
そして、翌日の決勝レース前のウォームアップでマルケスは5回目の転倒を喫し、彼のドイツGPは終了した。
トップライダーが転倒する理由
マルケスはタイトルを獲り続けていた頃から転倒が多かった。その理由は、プラクティスと予選ではいわば転ぶことで限界を探っていたからだ。そして決勝では、もちろん限界を超えないように走って結果を残してきた。そんなマルケスが、今大会では5回の転倒で身も心もボロボロになった。転びすぎるという批判に対しては、これまでと同じように「10位でいいのなら快適に走れるかもしれないが、僕は勝利を目指しているんだ」と語った。もっとも得意とするザクセンリンクだけに、その気持ちは一段と強かったに違いない。
ホンダが目に見えて低迷し始めたのは2020年にマルケスが怪我をしてからだが、その前年にはMotoGPで3回王者になったホルヘ・ロレンソが成績低迷で引退している。思えばその頃から、マシンに課題を抱えていたのだろう。21〜22年に在籍したポル・エスパルガロは成績低迷と怪我で移籍。そして今年加わったジョアン・ミルとアレックス・リンスは怪我で欠場中である。
トップライダーたちが次々に苦難に直面しているが、ドイツGPでのマルケスの5回の転倒は、不調の原因がエンジンなのか、車体なのか、電子制御なのか、それともそのすべてなのかという問いに対して、答えを出してくれたような気がする。それは、また次の機会に書くが、マシン開発はもちろん、運営面での責任が問われてしかるべき状況であることは間違いない。
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