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「沈黙ってお互い考えている時間だよね」世界選手権銀メダル、ミックスダブルス松村・谷田組は沈黙を認め合う 4人制とは違った“2人だけの時間”
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by©JCA IDE
posted2023/06/24 17:02
4人制でお互いに活躍をしていた松村千秋と谷田康真。「ちあき」「やすまさ」という名前から愛称は「チャッスーペア」
その瞬間とその後の記憶は、2人ともに定かではないことが、喜びの大きさを物語っていた。
松村が振り返る。
「あのときは……どんな感じだったかなあ。『よく粘った、よく頑張った』って2人で言っていた気がします」
谷田は言う。
「興奮していて、あまりはっきり覚えていないんですけど、インタビューエリアに行くときに松村選手から『ほんとうにありがとう』と伝えられたのは印象に残っています」
ショットを投げる前に「決まる」と思った
谷田はあらためて、松村のラストショットをかみしめる。
「この1年が活きた場面はありすぎて言い切れないんですけれど、ほんとうに全てがつまっていたなと感じるのは、あの松村選手の最後のテイクアウトショットですね。あのシーンは時間もなくて、考える時間がまずなかった。その中で相手がプレーしている最中に、想定されることを事前に2人で話し合ったうえで、そのショットに対するイメージを持つ時間をとってもらうために僕は松村選手に話しかけずにいました。実際に松村選手が投げる方に行って僕がハウスの中の状況を伝えて、僕がスウィープに行くんですけれども、そこの間というのは、もうお互いに頭の中でやることが明確に決まっているというか、感覚も研ぎ澄まされているのを感じました。ショットを投げる前に『決まる』と思ったのがいちばん印象に残っています」
あれからひと月あまりが経つ。松村はミックスダブルスに集中してきた1年を経た今のチームをこう語る。