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〈森保ジャパンのキーマン〉新コーチ・名波浩のサッカー哲学の原点とは「ロッカールームで泣いている選手もいた」ジュビロ磐田が誇った史上最強時代の秘密
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byJIJI PRESS
posted2023/06/16 11:03
森保監督の右腕となる名波コーチ(右)
技術、個人戦術の重要さを問いたオフト
「技術、個人戦術がいかに重要か。それを嫌というほど叩き込まれてきたからね。あのハンス・オフトが監督をしていた頃に。2002年のチームはオフトの時代から育ったメンバーが主力だった。
オフトがあまりにも強い口調で言うものだから、ロッカールームで泣いている選手も何人かいたくらい。当時の経験が最終的に生きたと思う。各々が自由にプレーしているようで実は理詰めで戦っている。そういうチームだった」
攻めと守りのイロハのイ。そういうものが一人ひとりに深く染みついていた。だから、周囲の勝手なイメージを逆手に取ることもできたという。
「初優勝した1997年頃から、やれ技術が高い、やれパスワークが上手いといったフレーズが独り歩きしていた。対戦相手もそんなイメージを持っていただろうから、変化をつけるのは効果的だったと思う。
徹底的にパスをつなぎ、敵陣に押し込んで点を取るばかりじゃなかったから。必要なら相手を自陣に引き込んで、速攻から点を取ることも少なくなかった」
オレ流のゴリ押しとは違う。あれもこれも手の内に入れながら、したたかに勝利をたぐり寄せるチームでもあった。しかし、それを加えてもなお、史上最強のチームに仕上がった理由としては足りない。残された最後のピースは何か。
名波はそれを「ドゥンガ魂」と呼ぶ
目に見えない強さ――勝者のスピリットだ。名波はそれを『ドゥンガ魂』と呼ぶ。1994年のアメリカ・ワールドカップで優勝したサッカー王国ブラジルのキャプテンだったドゥンガが翌年加入し、クラブに植えつけた勝者の精神である。