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多くの名選手が味わった「フジオカの壁」…47歳でついに“卒業”を決めたレジェンド・藤岡奈穂子が思い描く「女子ボクシングの未来」とは
posted2023/06/03 17:02
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi/AFLO
日本史上初の5階級制覇を達成した女子ボクシングの“女王”藤岡奈穂子(竹原&畑山)が47歳にしてついにグローブを壁に吊した。本人の言葉を借りれば「引退」ではなく「卒業」。長くこの競技の第一人者として走り続け、数々の偉業を成し遂げた藤岡は女子ボクシング界に何を残したのだろうか――。
「また必ずアメリカに呼ぶ」心に残ったGBP副社長の言葉
5月29日、東京・大森のジムで記者会見した藤岡の表情は晴れやかだった。目標に掲げた女子世界5階級制覇(達成当時は世界最多タイ記録)、そしてキャリア終盤には念願のアメリカ進出もはたし、藤岡は胸を張って「やり切った」と口にした。
アマチュアとプロでそれぞれ23戦、47歳まで現役を続け、掲げた目標を達成した上に、けが一つないというのだからたいしたもの。そんな藤岡も近年はどこかで線を引こうと意識していて、それは試合に敗れたときだと考えていた。
そのタイミングが昨年4月に訪れた。米サンアントニオのアラモドームでWBCフライ級王者、マーレン・エスパーザ(米)と自身の持つWBA同級王座をかけた2団体統一戦に敗れたのだ。さあ、きっぱり卒業しよう。そう思う間もなく、主催のゴールデンボーイプロモーションズ(GBP)の副社長が藤岡の控室にやってきた。
「副社長が『また必ずアメリカに呼ぶ』って言うんですよ。それで心が揺れて再起の道を選びました。4月に負けて、7月にロサンゼルスに渡って3カ月弱くらいトレーニングを積んだんです」
渡米の目的はトレーニングだけではなく、試合を決めるという狙いもあった。具体的な話はあった。が、最終的には条件面で折り合わず、藤岡はリングに上がることなく帰国の途につく。結局、その後もいい話には恵まれずに引退を決意。GBP副社長の言葉は幻となったが、「もう一度呼びたい、と言われるボクサーであって良かった」と藤岡の心に残った。