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七冠・藤井聡太新名人20歳「名人という言葉にふさわしい将棋を」、渡辺明らトップ棋士の“藤井将棋評”「そこまで行くことが…」
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph by日本将棋連盟
posted2023/06/02 11:04
名人戦第5局での藤井聡太竜王。新名人獲得、七冠達成の偉業を20歳にして成し遂げた
どうしても世間的な見立てでは“藤井くんと対局するタイトルホルダー”という立場として見られがちな渡辺名人だが、初代永世竜王、さらに10連覇を達成して永世棋王の資格を持ち、通算タイトル31期は史上4位など、その実績は将棋史に残る偉大なものだ。さらには2022年1月の王将戦第1局や2023年3月の棋王戦第3局のように、最後の最後まで渡辺か藤井のいずれに勝利が転がり込むか、常人ではまったく判別のつかない大熱戦を繰り広げたこともまた、渡辺の地力を証明するものだろう。
「名人という言葉にふさわしい将棋を」
渡辺は藤井がデビューした直後から、興味深い藤井将棋評を残している。その中で「将棋は先人たちの技術を学び、積み重ねていく世界」と表現し、大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、米長邦雄永世棋聖、そして自身も戦ってきた羽生善治九段に谷川浩司十七世名人といった歴代の大棋士の名前を挙げて「学んできましたから」と話していた。
そんな渡辺にとって自身が“上の世代”として戦うことになったのが、藤井だった。プロデビュー当時から「プロ野球にたとえるなら並の新人王の成績では当然なくて、高卒で3割30本を超えるレベルです。2割8分20本程度じゃない」といった言葉を残している一方で「『ストレートでタイトルを奪取されました』では盛り上がらないので、そこの見せ場は作りたいという思いはありますよ」とも決意を話していた。今回の名人戦では第1局の敗局後に自身のツイッターで「えぐいよなあ」とのつぶやきが、多くの将棋ファンの心を揺さぶったが、それでも第3局で意地を見せて1勝を返すなど、大棋士たる力を見せた。
名人戦第5局、終局直後の取材に渡辺は「特に負けた将棋ではチャンスが少なかったので、そうですね……こういう結果になるのは、仕方がないかなと思います」と話し、藤井は記者会見で「名人という立場は本当に重いものです。自分がそういう位置(名人位)に到達できたとは思えないところがあるんですけど、名人という言葉にふさわしい将棋を、という気持ちが一番強いです」と語った。凡人で計り知れない読み、駆け引きを頭脳で繰り広げた2人の対局だからこその重みある言葉だった。
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