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プロ野球PRESSBACK NUMBER
【身長150cmのスラッガー】阪神Women前田桜茄が振り返る“紅一点”の野球道「思春期の男の子は大変。子どもやから」珍しい「左投げ右打ち」の理由は…
text by
土井麻由実Mayumi Doi
photograph byHaruka Sato
posted2023/05/28 11:01
俊足にして剛打。アンバランスさも前田桜茄の魅力の一つだ
その成果か、6年生の村内陸上では1500m走の記録を打ち立てた。これはいまだ塗り替えられていないという。中学でも陸上は続け、「地区陸上大会のリレーと800mで新記録を出しました。リレーは県と地区の、800mは地区の記録です」と胸を張る。さらに駅伝部でもキャプテンを務め、1年生のときに区間賞も獲ったという。
男子が一緒に練習してくれない…意外な真相は
中学校に進んでからも野球を続けたが、周りに変化が起こった。男子の中で紅一点。小学生のころから一緒にプレーしてきたメンバーなのに、思春期特有の照れからか男子の方が意識してしまったようで、キャッチボールやストレッチの相手をつとめてくれなくなったのだ。練習では毎回、ペアで余った相手と組むことになりぎこちない空気が流れて困った。
「大人になって『昔、私のことめっちゃ嫌っていたよね?』って言ったら、『逆に好きやった』って。なんやねん、それって(笑)。だから思春期の男の子は大変。子どもやから」
小学生までは男女を意識することなく一緒にプレーしていたのが、中学生になると筋力などの差も生まれ、性別を意識しはじめるようになる。女子より男子が、だ。それは女子が野球を続けていく上で突き当たる、“壁”の一つかもしれない。
女子プロ野球の存在を知ったのはその頃だ。野球の道に進もうとネットで調べ、女子硬式野球部がある高校を探して、もっとも近い鹿児島にある神村学園に進学した。思い立ったら突き進む性格なのだ。
強豪女子野球部で練習漬けの日々
高校時代の話になると息を吐き、「しんどかったですね…」と急にトーンダウンする。野球部のルールは厳しく、上下関係もきつかった。そんな中、朝は誰よりも早起きし、夜は最後まで残って練習に打ち込んだ。前田の心を支えていたのは、親への感謝の思いだった。
「家族がめっちゃ好きなんですよ。15歳で(実家を)出て、最初の2週間はほんまに心にぽっかり穴が開いたような感じで、ごはんが喉を通らなかったです。親に会えない淋しさを何で埋めるかといったら、恋愛でもなく勉強でもなく野球やったんです」