僕自身は緊張もあってその言葉を聞き取れなかったのですが（担当さんいわく「全体的には自信のない局面が多かったんですけど、終盤はこちらも王手のかかりづらい形になって、それを生かすことができたのかなと思います」などコメントしていたそうです）、報道陣がその一言一句を聞き逃さないように神経を研ぎ澄ませていました。

　そして何より竜王のインタビュー中、目前にじっと座る渡辺名人の姿……。対局後にご自身のツイッターで「えぐいよなあ」と投稿されていましたが、その姿に将棋という勝負の世界の重みを強烈に突き付けられました。

©Junsei Chida

2人の感想戦の様子を、天彦九段が…

　インタビューが終わると感想戦へ。撮影などを終えて、担当さんとともに対局場を離れました。

「おつかれさまでした。めっちゃくちゃ汗かいてますね」

　いやいや、担当さんが送り出してくれた理由が分かりました。数分いただけでこんなにも疲弊するのか！ という緊迫感たるや……。対局直後に味わった空間の中で持ち時間9時間、2日制の戦いを繰り広げているのか。それがほんのわずかでも知ることができただけでも、本当に貴重な経験でした。

「千田先生、気づいていたか分からないですが、途中から天彦先生が入室して、感想戦の様子を見守っていましたね」

藤井竜王の後ろでは佐藤天彦九段が感想戦を凝視していた　©NumberWeb

　確かに――後ほど写真で確認してみると、藤井竜王の背中越しに天彦九段が2人と盤面を凝視する姿もありました。名人経験者、そして対局者それぞれが背負う将棋への思いの強さについて、まさに源泉を浴びたような衝撃を受けた1日でした。またタイトル戦、感じ取れるといいなあと思っています。＜構成／茂野聡士＞

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