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侍ジャパンの「WBC優勝賞金4億円」、W杯は「ベスト16で21.2億円」“横暴なMLB運営”の改善をマイアミ現地観戦後に願う 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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posted2023/04/05 17:01

侍ジャパンの「WBC優勝賞金4億円」、W杯は「ベスト16で21.2億円」“横暴なMLB運営”の改善をマイアミ現地観戦後に願う<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

日本国内に熱狂をもたらしたWBC。その一方で大会全体の運営についてはいまだに改善されるべきポイントは多い

 将来、野球でもFIFAのような国際組織が設立され、W杯のような真の世界最強決定戦が行なわれる可能性はあるのか――。冷静に考えると、その可能性は極めて低いとみなさざるをえない。その理由は、少なくとも2つある。

 A)MLBとMLB選手会が既得権益を手放すとは思えない。

 WBCを開催して得た利益はMLBに33%、MLB選手会に33%が渡され、収益の相当部分に貢献するNPBに渡るのは13%と報じられている。世界のトップ選手の大半がMLBの球団に在籍し、球団が許可しなければ選手は出場できない構図となっている現状で、MLBが既得権益を手放して国際組織の創設と世界大会の開催を認めるとは考えにくい。

 B)MLBが世界のプロ野球界を牛耳っており、これに対抗できる組織がない。

 野球の普及度が高いのは北米、極東、中米(オランダ領キュラソーを含む)と南米北部(ベネズエラ、コロンビアのカリブ海沿岸)。欧州、南米、アフリカ、極東以外のアジアにはプロリーグがほぼない。

 中米と南米北部は、選手育成と選手の活躍の場をMLBに依存する。日本、韓国、台湾にはプロリーグがあるが、MLBに匹敵する収益を上げておらず、競技レベルでも及ばない。このため、WBCでは冒頭に示したようなことがまかり通っている。

“春先の国際オープン戦”という立ち位置で続くのか

 WBCの開催時期が3月なのは、MLBとアメリカの他の主要スポーツの都合を優先するから。アメリカでは4大スポーツのシーズンが分かれており、アメリカンフットボールのNFLが9月から2月まで、バスケットボールのNBAが10月から6月まで、アイスホッケーのNHLが10月から6月まで。MLBはレギュラーシーズンが3月末から9月までで、ポストシーズンが10月から11月まで。他競技との兼ね合い、そして気候上の理由からも、シーズン終了後にWBCを開催することなど考慮に値しないのだろう。

 であれば、WBCを開催する年だけシーズンの開幕を早めればいいのではないかと思うが、MLBの各球団がそのような気遣いをする気はなさそうだ。これは日本も同様かもしれないが――MLBの球団が選手の参加に積極的でなかったり、出場に前向きでない選手がいるのは故障と調整不足を懸念するからだ。

 球数制限などの特別ルールがあるのも、選手が故障するリスクを軽減するためだし、開催地の選択も、ほぼMLBの一存で決められてきた。

 WBCを運営するのがMLBである限り、これらの問題点が解消されることは考えにくい。これまで通り、WBCは不完全な世界大会、いわば“春先の国際オープン戦”として存続し続けるのではないか。日本など限られた国の熱狂を生む一方で――W杯のように、世界中で興奮を巻き起こすのは難しいだろう。野球の競技人口が目に見えて増え、人気が急速に高まることも考えにくい。

実はフットボールも“英国限定”から変わるきっかけが

 それでは、このような残念な現状を変革する奥の手はないものか。

 実は、フットボールでも創世期にこれと似た問題が起きた。

【次ページ】 変革すべき役割を果たすのは、日本なのではないか

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