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[涙のインタビュー]ヌートバー「母の誇りになりたくて」
posted2023/03/30 09:03
text by
ブラッド・レフトンBrad Lefton
photograph by
Yukihito Taguchi
日本とアメリカの決勝戦から2日後、カージナルスのキャンプ地では、この日合流するラーズ・ヌートバーが最大のトピックになっていた。幹部や選手から次々に祝福の声をかけられてハグを交わし、ヤンキースとのオープン戦には「7番・左翼」で出場。その後にトレーニングまで終えてからインタビューに応じてくれた。
WBCの激闘を朗らかに振り返っていたヌートバーの様子が変わったのは、表彰式後にチームメイトに胴上げされた場面について聞いた時だった。
「日本ならではの儀式だから、特に君のお母さんは喜んだんじゃない?」と言うと、ヌートバーは突然言葉を詰まらせた。そして、彼は両手に顔を埋め、鼻をすすった。
「すみません……」という声は震えていた。ヌートバーは泣いていたのだ。
そのまま1分以上経っただろうか。
「その涙は胴上げに対して? それともお母さんへのもの?」
あらためて問いかけると、こう答えた。
「どんな息子でも母親に誇らしく思ってもらいたいもの。あれは最高の瞬間だった」
母・久美子さんの存在なしでは、日本代表はおろか野球選手としてのヌートバーもあり得なかった。その感謝を口にした。
「9歳の時に『日本代表になりたい』と言ったことがあって、当時そういう思いを抱いたのは母のおかげ。彼女は野球が大好きで、少年野球の頃はいつも庭でキャッチボールしたり、ブルペンキャッチャーを務めてくれた。彼女の野球への情熱のおかげで僕は野球が大好きになった。大きくなるにつれ、将来、日本代表になれたら、母がもたらしてくれた“自分の中の日本人としての部分”にうまく繋がるだろうと考えていたんだ」